大和被雷

 アメリカ軍の攻撃は日に日にすさまじさを増していった。

 マリアナ陥落前なら、南西諸島周辺の航路周辺は九三一航空隊の電探及び磁気探知機搭載機が定期的に哨戒し、米潜水艦の接近を許さなかった。

 だが、マリアナの陥落とフィリピン侵攻、硫黄島侵攻とその前後に行われる航空打撃戦により航空隊と飛行場施設が壊滅。

 対潜哨戒を行う九三一航空隊も機材は勿論、飛行場を破壊され残った機材の整備や給油に事欠く有様となり、米潜水艦の接近を許した。

 海防艦が必死に潜水艦を駆逐しようとしているが、十分に押さえ込めず、とうとう日本列島近くへの接近を許した。

 そして、大和が今、餌食になろうとしていた。


「第三一分隊! 総員艦内へ退避! ラッタルを降りて下へ!」


 放送を聞いた臼淵は直ちに少年少女達に言った。

 普通の船なら魚雷の一発で沈みかねないが、これは大和だ。

 四本の魚雷を同時に食らっても設計上、戦闘可能なように作られている。

 実際魚雷を一本食らっても乗員の大半が気がつかず、そのままトラックへ行き調子が悪くて念のため調べたら魚雷が炸裂していた事が分かったくらいだ。

 とんでもない戦艦に呆れる位のものだ。

 だが、乗っている人間、甲板の人間はそうはいかない。

 回避運動を行うときに振り落とされかねない。

 万が一魚雷が命中したとき、その時、吹き上がる水柱が甲板に落ちてきて、濁流となり足を払い、海に流されたら助けられない。

 彼らを艦内へ避難させなければ。

 だが、上手くいくか。


「第一班より順次艦内へ!」


「第二班整列して待機!」


「確実に降りろ! 転倒するな! 焦るなよ!」


 しかし、日頃の訓練が功を奏して、班長達は的確な指示を行い、転倒する者無く、第三一分隊の少年少女は順番に素早くタラップを駆け下りていく。

 流石、訓練を施しただけある。

 訓練を疎かにするべきでないと臼淵大尉は改めて認識する。

 しかし、艦内に避難させても何処に入れるべきか。

 奥へ避難しているようだが、そんな空間があったか。遠くへは隔壁閉鎖により移動出来ないと思うのだが。

 最後の一人がラッタルを降りるの確認して、臼淵大尉もラッタルを降りる。

 ようやく大和の舵が利き始め、強烈な遠心力が加わり始める。

 子供達は全員何処へ入った、下手な場所だと旋回の傾きと遠心力で転倒して怪我をしかねない。


「早くここに入るんだ! 奥から詰めろ!」


 聞き覚えのある声がして、反射的に臼淵大尉が従った瞬間、魚雷の命中音が響いた。

 米軍は改良を加えたらしくこれまでより巨大な水柱が、上がり、艦内に鈍い振動が起こる。

 部屋の舷窓を見ると、爆発によって発生した水柱が飛沫となって落ちて反対舷にまで届き、窓を濡らしていた。

 だが、それ以上の異変はなかった。

 やがて大和は回避行動を終え、傾きが収まる。


『総員に達す!』


 艦内スピーカーが状況を伝え始めた。


『現在大和は敵潜が放った魚雷六本の襲撃を受け内一本の命中を受けた! 各部損傷を報告せよ!』


『機関部異常なし! 最大戦速発揮可能!』


『右舷注排水区画に魚雷命中! 浸水発生するも軽微! 応急修理を行います! 現在他に浸水がないか調査中!』


『応急より艦橋。浸水により右舷へ傾斜一度発生。左舷注排水区画へ注水。傾斜を復元する』


『砲術科、主砲及び副砲異常なし。戦闘可能!』


『こちら防空指揮所。全対空火器異常なし!』


『航海科、人員に欠員なし』


『機関部異常なし! 最大戦速発揮可能!』


 そこまで放送を聞いて臼淵は自分の役目を思い出す。


「大和第三一分隊! 各班点呼! 班員を確認せよ! 点呼と共に各員に負傷がないか確かめよ!」


「第一班集合!」


「第二班はこっちに!」


「第三班整列!」


「第四班点呼!」


 すぐに部屋の中で整列し、各班が点呼を行う。

 怪我の有無を確認したため、少し遅いがすぐに報告が上がる。


「分隊長に報告! 各班欠員ありません! 負傷者なし! 異常ありません!」


「そうか、よくやった」


 全員無事である事に臼淵は安堵する。


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