疎開計画と問題

 マリアナ奪回作戦の失敗により日本軍は劣勢となった。反転攻勢どころか次のアメリカ軍の進攻さえ凌ぎ切ることは難しいと判断された。

 次の攻撃目標は沖縄とされた。

 硫黄島と台湾、フィリピンも予想されていたが比較的小さく、攻略しやすく海岸も多く上陸しやすい沖縄が本命とされていた。

 何より日本に近く、航空基地となり得る上、南方は勿論、大陸とのシーレーンを分断できる沖縄が次の目標と考えられていた。

 去年マリアナが失陥してから米軍の侵攻が予測されていたこともあり沖縄県から県外へ今度へ疎開する運動が始まった。

 マリアナ奪回作戦失敗後はアメリカ軍の侵攻が強く予測されるようになった。そのため遅れがちだった疎開作戦も迅速に行うことが求められていた。

 しかし大きな問題があった。

 疎開に使うための船舶の数が少なかったのだ。

 多くの船舶は大陸や南方資源地帯との物資輸送のために使われており、疎開に回せるだけの船はなかった。

 そこで白羽の矢が立ったのが連合艦隊の艦艇だった。

 マリアナ奪回作戦失敗後、損傷から回復した日本海軍の艦艇は本土からリンガまで移動し訓練を行った後、大量の資源を搭載し本土に帰還するのが役割になっている。

 作戦失敗で失った船舶、タンカーと商船の不足は艦艇を使わなければならないほど逼迫していたのだ。

 さらに状況は悪化しており、米軍の潜水艦による攻撃も激しくなり始めており、輸送船だけではなく疎開船さえ撃沈されはじめている。

 事実、去年は本土に向かっていた疎開船対馬丸が撃沈され多くの児童が死亡していた。

 日本の近海でさえ安全ではなくなり使えるものは軍艦でさえ使わなければならなくなった。

 こうして1945年6月の連合艦隊は南方との輸送の帰りに沖縄から疎開民の輸送も行う事となった。

 マリアナで損傷した艦は復旧すると補給を行い終了と同時に、日本本土を出発。

 一路南へ向かい、沖縄と台湾、フィリピンで増援の兵力と物資を下ろした後、更に南下しリンガへ。

 リンガで実弾演習を行い弾薬庫が空くとそこに生ゴムやタングステンのインゴットなどを置き、注排水区画に重油を満たす――もともと燃料タンクとして設計されていたが設計者が余分に燃料タンクを増設していたため、結果過大な航続距離となる事が判明し不要となり注排水区画として転用されていたのでタンクへの転用は問題はなかった。

 大和さえタンカー代わりに使って本土へ燃料を送る必要ができていたのだ。

 大和だけではなく他の連合艦隊の艦船も修理中で出航できない艦を除いて全艦が南方と本土の間を行き来していた。

 そして途上にある沖縄に寄港し県民の疎開を行うための疎開船としても使おうという意見が出てきて実行された。

 初めこそ反対意見が出ていたが、


「今日戦況が悪化し米軍の沖縄侵攻が目前に迫っているのは我々海軍、連合艦隊の力が足りなかったため、負けたためである。もちろん次に勝つために頑張ることは当然だ。だが負けた責任として戦場となりえる場所にいる国民を陛下の赤子を安全な場所へ避難させるのは帝国軍人として当然のことである。不満はあるだろうが、これも軍人としての職務、責任、義務として遂行してもらいたい」


 と言う伊藤長官の説得により、艦隊内の不満は急速に消え失せ第一機動艦隊は状況を、疎開のため民間人を乗せることを受け入れた。

 マリアナ奪回の敗戦で腐っていた申し訳なさで責任感から自責の念に駆られていた彼らの贖罪となり、将兵の精神を少しでも救うことができた。

 ただ問題がないわけでもなかった。

 やんちゃ盛りの10代の少年少女たちを、艦内でおとなしくさせるのが難しかった。

 フィリピンとマリアナ沖で既に米軍と交戦し極秘艦としての意味が失せ、一般に公開しても差し支えない状態になった大和。

 だが、軍艦である大和の内部を勝手に動かれては困る。

 厳重に監視して押さえ込むというのも手ではあったが、それでは子供たちの不満が高まるし、監視が見落とす可能性もある。

 そして、十分に監視へ回せるほどの余剰人員は乗員三千名を超す大和でもいない。

 なにより事故を阻止するため、少年少女達が自発的に規律を守るように仕向ける必要があった。

 そこで考えたのが彼らを水兵と同様に扱い訓練や生活を教え見込むことにした。

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