マリアナ奪回作戦失敗
戦争は、武力で相手に自分の目的を強いること、であり、相手が目的を達成したら相手の勝ち。阻止したら自分たちの勝ちだ。
自分と相手の目的が別にあり、それぞれが追及した結果、双方勝利という事態はある。
だが、そんな事は希だ。
今回の作戦もそうだ。
「我々はマリアナを奪還し、アメリカはマリアナを守り通すのが目的でした。今回は我々は攻めきれず、アメリカの反撃を受けて逃げ出すことになりました。負けです」
「……ハッキリと言うな」
「正しい現状認識をしませんと、作戦など立てられませんから」
「それもそうだが」
佐久田の意見は正しいが、勝ちを求める帝国海軍軍人としては、癪に障る言い方だ。
だが、一番頼りになるのが佐久田のような考え方というのも腹が立つ。
本当なら、損害を無視して角田は戦いたかった。
山口以上の闘将と言われる角田ならば、航空隊が全滅しても、水上決戦を挑むだろう。
最後の一艦となっても、一兵となっても突撃し戦い続ける。
角田はそういう指揮官だ。
しかし、最高指揮官である伊藤が撤退を命じたため、撤退しかない
幾ら猪突猛進でも、海軍軍人であるからには命令に従わなくてはならない。
「で、どうだ。次回の作戦は」
「絶望的ですね。陸上部隊の装備と物資を失いました。大規模揚陸作戦を行う事は、出来ないでしょう」
今回上陸作戦に参加したのは陸軍の中でも優良装備を持つ第五師団と海上機動師団二個だ。
兵員は無事だが、装備と物資を失っており上陸作戦は無理だ。
「艦艇の損傷も大きいです」
空母もそうだが、空襲と夜戦により軽巡以下の小型艦艇に大きな被害が出てしまった。
今後は空母の護衛さえ事欠くだろう。
海上での作戦も無理に近い。
損傷艦の修理と、燃料が足りない。
修理と燃料の調達に時間をかけることになる。
最低でも二ヶ月。
恐らく八月上旬まで連合艦隊は動くことが出来なくなる。
「それ以上に大きいのは航空戦力を失ったことです」
マリアナ奪回作戦のために硫黄島や関東地方に航空戦力を集結させた。
だが、機動部隊の攻撃で、それら灰燼に帰した。
特に航空機の支援能力が激減したのは最悪だ。
予備の航空機をはじめ、整備能力が激減している。今後の作戦で航空戦力は大幅に制限されるだろう。
「アメリカはやってくるか?」
「確実に、マリアナとハワイの修復をするための時間が必要ですが、すぐでしょう」
恐らく、米軍の戦力は二ヶ月で完全に復旧、いやある程度の増援を受ければ一月で作戦行動可能になるだろう。
その後は、満を持して日本の勢力圏へ侵攻してくる可能性が高い。
常識的に硫黄島か、演習で佐久田が狙った沖縄だろう。
そして一月で、いや二ヶ月でも日本側の戦力が、作戦前の水準に回復することはない。
損耗を、特に機動部隊の艦載機が足りない。
熟練パイロットが少ないのだ。
腕の良いパイロットの育成には時間が掛かる。
彼らが育つ猶予など日本にはない。
「だがそれでも我々は戦い続ける。ドイツもまだ頑張っているんだ。無条件降伏など受け入れる事は出来ない。本土決戦を行ってでも徹底的に戦い、祖国を守る」
角田は決意を新たにした。
だが、それを白けた目で佐久田は見ていた。
今回の戦いで、日本側は再侵攻する戦力を、島の占領に必要な上陸部隊を失った。
再び攻勢に出られる機会と能力は日本から永遠に失われた。
マリアナ奪回の機会は永遠になくなり、B29による本土空襲を完全阻止する手立てを失った。
本土の空襲は激しくなり工場は破壊され、生産力は低下。
戦力の補充どころか、修理さえ難しい状況となる。
それを佐久田は知っており、余計に胸の内が苦しい。
「厳しいな」
東の空に太陽が昇り始めた。
旭日旗のようだったが、とても晴れ晴れとした思いで見る事は出来なかった。
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