夜戦の結果
「敵の戦艦二隻の他、多数を撃破しました。対して武蔵、比叡、霧島が大破。金剛、榛名が中破。他は比較的軽微です。あと伊集院少将が戦死しました」
「ご苦労」
佐久田から報告を受けた角田は答えた。
山口が戦死したため、伊藤に指揮権が移っている。
だが伊藤は水上艦部隊である第二艦隊司令長官のため、航空戦の指揮が出来ない。
そこで第二部隊の司令官である角田が、第一機動艦隊全航空部隊の指揮を執ることにした。
珍しい事ではなかった。
ミッドウェーでも、旗艦の被弾により指揮不能になった南雲の次の指揮官は護衛部隊を指揮していた三川提督だった。
しかし、水上艦部隊だったため、山口少将に指揮を執るよう命令し、事実上、山口が後任として戦い抜いたようなものだ。
戦艦からでも指示は出せるが、空母なら航空隊の様子、少なくとも旗艦となった空母の飛行甲板を見て作業の様子を知る事が出来る。
旗艦の作業を見て他の艦の動向も推測することが出来るので、航空部隊の指揮官は戦艦が指揮下にあっても空母に座乗するのが良い、というのが空母戦を経験した日米両海軍の結論だった。
今回も同じことであり、伊藤から委任される形で、角田が全体の指揮をとることになった。
「撤退の為に艦隊が割かれていましたから」
船団の空母から輸送機を使って、第二部隊旗艦大鳳へやって来た佐久田が報告する。
敵の襲撃を警戒して、警戒線を作らせたが、日中の混乱で把握できている艦艇が不足し戦艦が正面からぶつかることになって仕舞った。
本来なら警戒のための駆逐艦を数隻付けるべきだが、そんな余裕はなかった。
日中の空襲で疲労していたことも発見が遅れ、襲撃を許す結果となった。
第一、使える駆逐艦の数が少なかった。
「それで収容は出来たか」
「多くの駆逐艦を割いて沿岸に接近して貰ったお陰で陸上部隊は収容できました。兵員だけですが」
日本本土が空襲され支援設備がなくなった状況、しかも米軍の機動部隊がやって来ている。
このような状態でマリアナ奪回作戦を完遂する事など不可能だ。
占領できても、防備を整えられないため、すぐに奪回されてしまう。
ここで、消耗戦を繰り広げても国力が大きいアメリカが有利だ。
だから、陸上部隊に撤退を命じた。
作戦案は先日佐久田が出した兵員のみ収容して離脱するやり方だ。
「上手くいきましたが装備や揚陸した物資は全て失いました」
「構わない、人員さえ無事なら幾らでもやり直せる」
角田は気にしなかった。
警戒線に向ける駆逐艦、巡洋艦が少なかったのは、撤収作戦に使用するためだ。
機動艇だと速力が遅すぎるため、敵の哨戒圏から離脱させるためには日没直後に出発させる必要がある。
そこで、残りは、大発を使い、駆逐艦に収容。
全速で離脱させるソロモン以来のやり方を行う事にした。
そのため、警戒線に向けられた駆逐艦の数が少なかった。
苦戦する事は理解していたが、撤退作戦を完遂するためには致し方のないことだ。
本当なら、苦戦する前に、敵機動部隊が来る前に撤収できたハズなのに、大本営が逡巡したため、現場指揮官が熱血過ぎるため撤収の時機を逸してしまった。
結果、警戒線に付いた現場が駆逐艦不足で苦労することになり、第三戦隊が壊滅状態となった。
「それで? 敵は見逃してくれそうか?」
「どうやら、米軍は勘弁してくれるようですね。敵機来襲の報告はありません」
夜が明けたが、敵の索敵機が接触する他は何もない。
念のため艦戦を直衛に出しているが、的攻撃隊の接触の報告はない。
「まあ、敵も艦載機を消耗して、追撃する余裕がないのでしょう」
累計で六〇〇機ほどを撃墜したという報告だ。
勿論、戦場での誤認も多いが、その点を割り引いたのがこの数字であり信じて良いだろう。
およそ半数を撃墜した勘定だ。
そして、夜襲で敵艦に大分損害を与えている。
敵戦艦を撃沈したことは確実であり、水上艦艇にも損害が出ており、追撃する余裕はないはずだ。
断言は出来ないが、敵を撃退出来たと判断して良い。
だが、作戦の成功と戦闘の勝敗は同一ではない。
角田は佐久田に尋ねた。
「我々の負けか?」
「はい」
佐久田はハッキリと答えた。
「マリアナ奪回に失敗しましたからね。敵の目的達成を妨害する、という意味ではアメリカの勝ちです」
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