沖縄決戦

日本側首脳部刷新

 第二次マリアナ沖海戦の敗北、マリアナ奪回作戦の失敗は日本に衝撃を与えた。

 作戦は上陸までは順調だったが、マリアナ諸島各島の早期制圧に失敗。

 長期戦に持ち込まれた。

 マリアナ各島の制圧に手間取る間に、アメリカの機動部隊、第五艦隊が来襲し、日本本土東京周辺を空襲。

 敵艦隊の接近を許した事で日本は大きく動揺。

 後方兵站機能が麻痺し航空機による奪回部隊への支援能力を失った。

 そのため航空機の援護がなくなった日本軍は来襲したアメリカ軍機動部隊は苦戦を強いられる。

 機動部隊同士の激突の最初にカウンターを日本側が放つも、地力の差により徐々に劣勢に。

 最終的に夜戦にまで持ち込むが、戦力の半数を双方とも喪失。

 日本軍は上陸部隊を収容して撤退し作戦を終了。


 日本は作戦に失敗し敗北した。


 日本が重要拠点の奪回能力がないことを世界に示してしまい、日本の劣勢、戦争遂行能力の低下は明らかとなった。

 しかし、日本は断じて降伏を受け入れられない。

 国体を、天皇制を護持できない、アメリカの植民地、属国になるのは、拒否する。そのため継戦を続行。

 一撃講和――条件付き、国体護持と少しでも優位な条件で降伏できるようにアメリカに打撃を与えるべく、それまで粘ることにする。

 しかしマリアナ奪回作戦失敗による損害で戦力がないことは明白だった。

 政府内では、今回の敗北を巡って、責任のなすりつけ合いが勃発。

 最終的に小磯首相が敗戦の責任を取って辞任することで内閣が刷新されることになった。

 東條は継戦のため、本土決戦で主体となる陸軍を主体とするため大陸打通作戦を成功させ、西日本担当である第二総軍総司令官である畑大将を推薦。

 しかし、終戦を目論む重臣と、侍従長を勤め上げた鈴木を信頼する昭和天皇の意向により鈴木貫太郎元海軍大将が首相となった。

 新首相となった鈴木は就任演説で二月になくなった前大統領ルーズベルトへの哀悼の意を表し、連合国側に好感を持って貰った。

 ヒトラーが激しくルーズベルトをなじり、貶すのとは対照的だったこともありドイツとの違いを明確に示すことが出来た。

 海軍内では海軍大臣には米内大将が留任、海軍次官に井上成美が大将に昇進するも異例の人事で留任となった。

 そして軍令部総長には米内のたっての頼みで山本五十六が就任。

 米内の片腕となり海軍は米内、井上、山本の海軍左派三人が率いることになった。

 しかし、左派に要職を占められることを良しとしない強硬派が軍令部次長に大西瀧次郎をねじ込み、継戦の姿勢を見せさせる。

 本当なら就任させたくなかったが海軍の分裂を避けるため、強硬派を抱き込む必要があり山本達は受け入れた。

 そしてマリアナ奪回作戦の主導者であった連合艦隊司令長官豊田大将は、作戦失敗の責任を取って辞任。

 新連合艦隊司令長官には横須賀鎮守府司令長官塚原二四三が大将へ昇進の上、就任した。




 この日、日吉の地下壕で新長官を連合艦隊司令部の幕僚達は歓迎した。

 先日、連合艦隊参謀に着任した佐久田も地下壕の指揮室で整列して迎える。


「よお! お前ら、今日から新長官となる塚原だ。宜しくな」


 扉を入るなり大声で言ったのは新長官の塚原二四三大将だった。

 少佐の時、横須賀航空隊に配属されてから海軍航空の道を歩み、航空専門家の地位を得た人物である。

 戦死した南雲大将の同期で、当初は塚原が機動部隊の指揮官として期待された。

 しかし、そのような事はなかった。


「ああ、そういうのはいい、堅っ苦しいことは嫌いなんだ」


 敬礼する幕僚達に左の袖口をひらひらさせながら塚原は答えた。

 遊んでいるのではない、左腕がないのだ。

 中国戦線で航空隊の指揮を執っているとき、中国軍が日本軍の拠点、漢口を空襲。

 司令部建屋、掩体壕ではなく普通の建物を爆撃され、中にいた塚原も負傷し、利き腕である左腕を失ったのだ。

 この怪我では海上勤務、艦隊指揮は難しいと上層部に判断され、塚原は以後、陸上航空部隊へ。空母どころか艦隊勤務さえ出来なくなった。

 開戦時は第一一航空艦隊司令長官として陸上航空隊を率いて、フィリピンへの空襲、マレー沖海戦を勝利に導いた。

 一部からは南雲ではなく怪我していても塚原を機動部隊司令官にするべきだった、という声が囁かれていた。

 ただ、佐久田は、あんな奔放な司令官では、勝手に進めてどこかで墓穴を掘るのがオチだ、と評価していた。


「がはははっ、佐久田ならそう言うだろう」


 その呟きを人づてに聞いた塚原は豪快に笑い飛ばした。


「俺が司令官になったら佐久田に全て任せる。島田さん、永野さんあたり、山本さんも文句を言ってくるだろうが俺が壁になってやるよ」


 と言うほどに佐久田の事を信頼していた。

 その事を聞いた、佐久田は珍しく照れて黙り込んだ。

 以後、佐久田はやりづらいが評価してくれた塚原大将をなんとなく気にかけている。


「よお! 佐久田! 今回も世話になるぜ! 宜しくな!」


 だから塚原は佐久田の事を良く思っていた。

 佐久田が横須賀鎮守府勤務になったのも、塚原の引き抜きがあったからだ。


「漢口やマレーの時のように頼りにしてるぜ」

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