夜戦による混戦

 第三戦隊から伸びる探照灯の光を見た伊藤は直ちに全艦艇に急行するように命じた。

 艦の相対位置と、砲術の専門家である猪口が艦長をしている事から、武蔵を先頭にして行かせた。

 そして射程距離に入ると猪口は直ちに射撃を命令。

 夜間遠距離にも関わらず、初弾命中させた。

 突然の僚艦の撃沈に驚いた上、指揮官を失っていた他の米艦艇は、劣勢と判断し、離脱を命令。

 反転して引き上げていった。


「見事」


 後方の大和で指揮を執ってた伊藤は武蔵の成果を見て満足した。

 敵戦艦を第三戦隊が一隻。

 更に一隻を武蔵が仕留めた。

 第三戦隊に大きな被害が出ているが、敵を撃退できたのでよい。


「各艦、周囲を警戒しつつ残敵掃討を」


 伊藤が命じたとき、前方の武蔵左舷側で水柱が複数上がった。


「武蔵被雷! 速力低下!」

「左舷前方に艦影多数! 敵艦です!」

「取り舵一杯! 敵に向かって旋回!」


 直ちに森下が命令する。

 大和が旋回した直後前方から白い筋が迫ってくる。


「前方より魚雷多数接近!」


 アイオワ級の露払いとして先陣を切っていた駆逐艦部隊が、第三戦隊の後方へ回り込んだ。

 そのまま第三戦隊を襲撃しようとしたが、武蔵がイリノイを仕留めた。

 アイオワ級戦艦群が撤退したため孤立した彼らは撤退しようとしたが、置き土産として、武蔵に魚雷を放ち、見事命中させた。

 流石の武蔵も浸水が発生し、速力が低下し傾斜がおき発砲不能になる。


「敵の水雷戦隊がいるぞ! 排除しろ!」

「はいっ」


 直ちに伊藤の命令で大和の副砲から照明弾が発射され、敵駆逐艦部隊を映し出す。

 発見した駆逐艦へ高角砲と副砲が射撃を始める。

 その頃には大和の周囲にも巡洋艦戦隊や駆逐隊が集結しアメリカ軍を撃退し始めた。

 彼らは米艦艇を発見し、退路を断とうと回り込もうとする。

 一方の米側も、逃げようと隊列をバラバラにして散り始め、日本艦を迂回しようとする。

 そして予想外の事態が起こる。


「右舷に味方艦!」

「副砲射撃用意!」

「馬鹿! アレは単装砲だ! 敵のフレッチャー型だ! 打ってきているぞ!」

「左舷敵ギアリング級! 射撃用意!」

「違う! あれは陽炎型だ!」


 夜間、視界が悪く敵味方の識別が困難だった。

 敵の突入により乱戦状態となり、誤射の危険が高まった。

 大和の艦橋でさえ混乱の中、いや、第二艦隊司令部があるため、情報が集まってきていて余計に酷い。

 第三艦隊に関しては、角田に指揮権を渡して航空戦の指揮を命じているが、夜戦の指揮は伊藤が行わなくてはならない。

 本当なら第一機動艦隊全体の指揮に専念するべきだが、戦力が低下している中、水上戦最高戦力の大和を投入しないという選択肢はない。

 だが、このような混戦では、敵の奇襲を受けたり、味方による誤射の可能性も出てくる。

 混乱を収めなければ。


「全艦艇に探照灯を照射するよう命じろ」


 伊藤は命じた。


「しかし、それでは敵に位置が露見します」

「構わない! 直ちに点灯させろ! 味方は全艦点灯! 点灯しなければ敵艦と判断し撃沈せよ!」

「は! はい!」


 伊藤の厳命により、直ちに無線で点灯が命じられた。

 闇夜の中から多数の光りが溢れる。

 光りは周囲を照らし、一部は敵艦を捕らえた。


「撃てっ!」


 敵味方の識別が容易になり、躊躇無く発砲が行われた。

 戸惑いが少ない分、攻撃が容易なため、斬り込んできた米艦艇を次々と撃破する。

 照射を受けた米艦艇も混乱した。レーダー射撃を行っているが、最終的な照準は目視で行う。

 探照灯の強い光をまともに受け、混乱し抵抗が弱まった所を日本艦の集中攻撃を受け、撃破されていく。

 第二艦隊の陣形の中から、敵艦を一掃した。


「ひとまず、警戒線に入ってきた敵艦を全て仕留めたようだな」


 味方の中に敵がいない、誤射の危険を無くすことが出来て伊藤は安堵した。


「もう、探照灯は消しても良い。全艦一斉消灯」

「はい!」


 敵味方を判別する苦肉の策だったが、上手くいった。

 消したからには最早不要。探照灯を消した。

 しかし、夜戦はまだ終わっていない。


「上空に航空機!」

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