夜戦と迎撃
「以下に指定する艦を以て、臨時夜戦任務群を編成。日本艦隊への夜襲を命じる。敵艦隊を突破、船団突入を目指せ」
前回のマリアナ沖海戦での損傷が治りインディアナと共に復帰し艦隊に随伴している戦艦アラバマの艦内で、スプールアンスは命じた。
日中の日本軍による航空攻撃により前の旗艦インディアナポリスが被弾、大破炎上したためだ。
幸い司令部要員の被害は少なかったがアンテナと上部構造物が破壊され、旗艦としての能力を喪失。
スプールアンスは旗艦を戦艦であるアラバマへ移動させ、指揮を行った。
インディアナポリスは、鎮火に成功したが、被害が酷く本国に送り返して修理することにする。
「治ってくれよ」
分離するインディアナポリスを見送ったスプールアンスは強く願った
愛着がある艦なので戦列復帰して欲しい。修理されたらまた乗りたいと考えていた。
だが、感慨を抱いてばかりはいられない。
戦いはまだ続いている。
日本艦隊を撃破しなければマリアナが危うい。
しかし航空戦力が大打撃を受けている。
空母の被害も大きく、半数が被弾しやられている。乗せていた艦載機の損害も大きい。
だが、日本軍をあと一歩で撃退できそうだ。
ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
そこで配属されたばかりの高速戦艦群ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン、イリノイ、ケンタッキーからなるアイオワ級の戦艦部隊に巡洋艦、駆逐艦を付けて夜襲部隊を編成。
日本の警戒網を突破、可能であれば船団へ突入し撃滅する事を命じたのだ。
「艦載機の損害が酷い。補充は出来るが、マリアナを奪われるのは危険だ。今すぐ友軍を助ける為、健在な君たち戦艦部隊を使う」
侵攻されて一ヶ月、守備隊は限界だとスプールアンスは考えていた。
陸軍航空隊による本土空襲、市民を巻き添えにした無差別爆撃は気に食わないが友軍を合衆国国民である将兵を見捨てることは出来ない。
日本艦隊の排除のためのあらゆる手段をとることを決断し、夜襲部隊を編成、攻撃を命じた。
「出来れば敵の船団を壊滅させて欲しい。敵の船団は日本に残った数少ない輸送船だ。これを撃滅すれば日本が島々へ侵攻することは出来なくなる。沈めて貰いたい」
敵の警戒網を撃破し、船団への突入は少し荷が重かったが的を射ていた。
人間は海を渡るようには出来ていない。
船さえ撃破すれば敵の兵力をマリアナに閉じ込めることが出来る。
後は海上から包囲して殲滅するだけ。
「レイテの復讐だ。日本軍が二度と侵攻出来ないようにしろ」
命じられた指揮官は直ちに艦隊を率いて出撃した。
奇襲を重視し、レーダーを作動させず接近したが、途中日本艦隊に発見され、攻撃を決断。
夜襲部隊旗艦ニュージャージーが砲撃すべく、主砲を金剛へ旋回させていた。
そこへ、第三戦隊の初弾が命中した。
咄嗟の射撃だったが、四隻が放った三二発の主砲砲弾だが戦艦にしては至近距離の七五〇〇メートルから殺到し、ニュージャージーに多数の命中弾が発生した。
特に目立つ上部構造物、艦橋周辺は甲板の装甲で弾かれた弾も飛び込んだため命中弾が多数殺到し被害が酷かった。
米夜襲部隊全体の司令部が艦橋に座乗していたが、この初撃により全滅。
通信機器も破壊され、一時指揮不能となる。
「良し! 第三戦隊砲撃続行!」
先手を打った好機を伊集院は逃さなかった。
砲撃が来ないのを良い事に急斉射させる。
一分間に三発という素早い砲撃でニュージャージーへ打撃を与える。
すぐに反撃するが、前部の六門だけ、しかも猛烈な砲撃の元では碌に狙えず、外れて仕舞う。
流石に装甲は抜かさなかったが、上部構造物をメタ打ちされ、ニュージャージーは廃艦同様となった。
煙突にも被弾し、排煙効率が低下。機関出力が低下し、速力低下を引き起こして、落伍していく。
「やったぞ!」
成果を見て、伊集院は喜びを声にして言った。
「まるで第三次ソロモン海海戦のようだ」
あのとき、愛宕は日本軍の泊地を警戒していた。そして日本の船団を攻撃するべく米軍が接近してきた時、見張りは敵艦と断言したが新米のため周囲は不安がり、敵味方不明として周囲は射撃を躊躇った。
だが、当時愛宕艦長の伊集院は部下の報告を信じ砲撃を命令。
見事敵艦に命中させ、襲撃に来た敵艦隊を撃退する事に成功した。
あのときの様に伊集院は部下を信じ、勝利を掴んだ。
だが、敵も撃たれてばかりではなかった。
目標としている戦艦の右側に、多数の閃光が見えた。
直後、金剛の周辺に、水柱が立ち上がる。
「しまった。敵の残りか」
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