警戒線上の第三戦隊
「第三戦隊! 全艦付いて来ているか?」
「はい、各艦、距離二〇〇〇を保ち、続行してきております」
「よし」
金剛に座乗した伊集院松治少将は報告を受けて満足した。
敵の空襲で陣形が乱れたが、第三戦隊は集結に成功していた。
伊集院の指揮も良かったのだが、金剛型が三〇ノットの高速を出せるように改造されていたのが大きく、迅速に集まることが出来た。
お陰で真っ先に伊藤長官の下へ駆けつけ警戒線の監視を命じられた。
警戒線に沿って南北を航行しており、警戒線の端に行くたびに反転している。
今回で二回目の南下だ。
「見張り、他に、味方艦は見えるか?」
「ダメです、視界が悪いです」
見張り員は歯切れ悪く答えた。
昼間の戦闘で陣形が乱れ、味方艦の位置がバラバラになっている。
把握するにしても、おおよその位置さえ判明しない。
しかも被弾して艦の形が変わっている艦もいる。
識別など、殆ど不可能だ。
「供回りの駆逐艦もいないか」
敵艦隊の突入を防ぐため警戒線を広げたため各艦は各所に分散している。
掌握できた駆逐艦と巡洋艦も方々へ行き、第三戦隊の周りにはいない。
昼間の空襲で駆逐艦の燃料が足りないのと、空母と船団の護衛に裂かれているという理由もある。
そのため、戦艦が最前線に立たなくてはならない、異常事態となった。
伊集院も、異常事態は理解していた。
そして、この状況で敵が仕掛けてくるであろう事も。
供回りがいないからといって撤退する事は出来ない。
背後には空母は勿論、船団がいるのだ。
彼らを仕留められたら、陸上の部隊は孤立し、見捨てるしか手はない。
ここで、第三戦隊が食い止めなければならなかった。
「左舷側! 方位〇八五! 距離九〇〇〇に敵戦艦発見!」
「何!」
戦艦発見の報告に艦橋がざわめく。
「間違いないか!」
「間違いありません。米戦艦、サウスダコタ型と思われます! こちらに向け接近中、距離八五〇〇!」
急速に接近してきていた。
しかし、判断を下せない。
報告したのは任命されたばかりの若い見張り員だ。
味方を見間違いしている可能性もある。
「何処だ。見えないぞ」
見つけようとしても、夜間遠距離では見つけにくい。
発見した者でも、一度見失うと、見つけるのは至難の業だ。他の者が見つけようとしても無理だ。
「本当に敵艦か」
「はい、艦首に三連装砲二基を見ました」
そのような主砲配置をしているのは日本では大和と武蔵だけだ。
だが、昼間の戦闘で大和と武蔵の位置を見失った。
東側から進撃してきているが、艦位を見失って慌てて合流しようとしているかもしれない。
だが、敵だった場合、今すぐ攻撃しなければ危険だ。
敵は金剛級の三六サンチ砲を上回る一六インチ――四一サンチ砲を搭載している。
先手を打たなければやられる。
「更に後方に戦艦を多数確認。前方には駆逐艦」
見張り員は次々と報告をする。
味方の艦隊なのか、それとも敵の艦隊なのか。
判断できず、誰もが黙っていた。
「距離八〇〇〇!」
時間が、判断するまでの時間が減っていく。
その時、伊集院が動いた。
「左砲戦用意! 目標! 敵戦艦距離七五〇〇! 第三戦隊一斉射撃用意!」
「司令官」
「何をしている! 砲撃用意だ!」
「は、はい!」
逡巡する幕僚を抑え、伊集院は命じた。
伊集院は部下を、第三戦隊の乗員を信じることにした。
歴戦の金剛型に相応しく、すぐさま砲撃準備が整う。
主砲が左へ旋回し、敵艦に向かって狙いを定める。
「探照灯照射! 照準整い次第砲撃! 砲撃開始!」
艦橋後ろの煙突の根元に設置された探照灯が、開かれ、一筋の光が敵艦隊に向かって伸びて行く。
そして、接近する艦艇を捕らえた。
「見えた! 咄嗟射撃始め!」
伊集院の号令で、金剛が発砲。
続いて砲撃準備を整えた第三戦隊の全艦が、一斉に射撃を始めた。
誤認、同士討ち、悪い可能性があったが、伊集院は部下を信じた。
そして、勝ち取った。
砲弾が命中したのはアメリカの戦艦だった。
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