日本側の防衛

 ドーン


「船首に魚雷命中!」


 兵員輸送船の一隻に魚雷が命中した。


「沈むぞ!」


 乗っていた将兵達は、パニックになり、甲板に出ようとハッチやハシゴに駆け寄る。

 しかし大勢が駆け寄ったために詰まり止まる。だが、出ようと後ろが更に殺到する。

 ハシゴも、人が次々と手を伸ばし、ハシゴだけではなく、人間の身体を掴み登ろうとして人で膨れ上がり人間玉になっていく。

 士官や下士官が止めようとするがパニックになっていて届かない。

 集まりすぎて死人が出そうになる。

 だが、そこへ甲高い声が響く。


「落ち着くんだお前ら!」


 突然の声に兵隊達は手を止める。

 振り返ると、声の主がいた。

 なんと、声変わりしていない十代前半の少年だった。


「このクラスの船なら機関部に食らわない限り沈まねえ! 当たったのは船首だ! 慌てて甲板に飛び出す方がよっぽど危ねえ! 大人しく待っているんだ!」


 兵隊は二十代前後の人間が多く、少年より年上だ。

 しかし、少年の剣幕と有無を言わせぬ迫力、そして説得力に、兵隊達は圧倒され、混乱は収まり、全員が大人しく自分たちの待機場所へ戻っていった。


「凄いね君」


 今のやりとりを見ていた士官が正念に駆け寄り、話しかける。


「けど、どうしてこの船にいるんだい?」


 特年兵、特別少年兵でも十六歳からだし、制服を身につけていない。


「母ちゃん死んじゃったから、父ちゃんの船に乗っているんだ」


 父親だけのため、船員である父親に付いて船に乗っているそうだ。


「凄いね、それで魚雷を受けても船の構造に詳しいから冷静だったのか」

「それもあるけど」


 スレたような口調で言う。


「どうしたんだい」

「俺はもう三回も撃沈されているし、その倍は乗っていた船に敵の攻撃を受けているから。船が沈むかどうか分かるんだ」

「撃沈慣れしている……」


 あまりの回答に士官は黙るしか無かった。




「船団と後方の空母を守る為に戦闘機隊は引き上げるか」


 第三戦隊司令官の伊集院松治は状況を、戦闘機隊が引き上げられたことを知って呟いた。

 彼の部隊は第二部隊に所属しており、所属する空母を守る事が任務だ。

 戦闘機がいなくなると敵機が殺到し苦戦するだろう。


「やれやれ、ソロモン以来の忙しさになりそうだな」


 だが、伊集院松治は諦めなかった。

 愛宕艦長、金剛艦長、第三水雷戦隊司令官としてソロモンでは戦ってきた。

 先日まで護衛船団の司令官をしていたが、腕は鈍ってはいない。


「司令官! 敵編隊が接近してきます!」

「やっぱり、くるか」


 後方の空母を狙うのが目的でも


「第三戦隊、各艦対空防御。艦隊対空射撃を行う。三式弾装填」


 伊集院の命令に第三戦隊は素早く反応する。

連日、伊集院の指導を受けて各艦の動きは良かった。

 すぐに、敵編隊に対して全砲門を撃てるよう、艦の向きを変え、主砲を向ける。


「砲撃準備完了!」

「準備出来次第撃て!」


 直後、金剛型全艦の主砲が火を噴き、敵編隊に向かって砲弾が飛び出す。

 敵編隊も、砲撃に気がつき、分散し離れていく。

 被害は少なかったが、敵編隊の連繋を乱すことは出来た。


「敵機! なおも接近します!」

「陣形解除! 各艦個別に回避!」


 バラバラに襲撃してくる相手に三式弾を売っても効果が無い。

 ならば各艦で対処させた方が良い。

 それに連携を欠いた攻撃など、回避行動で十分に躱せる。

 実際、第三戦隊に被害はなかった。

 空母も対空砲、高角砲の射撃で敵機を寄せ付けず、護衛の任務を果たせた。


「全艦、大きな被害はありません」

「よし、いいぞ」


 全艦が任務を全うしていることに伊集院は満足した。


(しかし、戦闘機隊も回せないとは劣勢だな。第二部隊は襲いかかる機数も少ないようだが、第一部隊は大丈夫なのか)


 部下に気取られないように笑みを浮かべていたが、伊集院は内心では疑問だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る