日本側の損害

 やはりダメだった。

 無線で敵攻撃隊によって空母が被弾し戦闘不能になったと聞かされ、佐久田は嘆息する。

 装甲を張っていない通常型の空母では敵の攻撃を受けると容易に飛行甲板を貫かれ、ボロボロにされ、発着艦不能となる。

 これまでの戦例通りだった。


「能力回復の見込みなし」


 空母からの報告は当然だった。穴だらけになった飛行甲板の修理は母港に帰らないと不可能。最短でも一ヶ月はかかる。

 装甲空母なら、装甲板を抜かれない限り、破壊された航空機や装備を投棄するだけで済むので、甲板上の清掃――飛び散った破片の除去、艦載機のタイヤに穴が空かないために排除するだけで済むので二時間、最短で一時間で済む。

 分かっていたが、改めて言われると胸が痛む。

 同時に貴重な戦力が失われ、戦力低下に頭も痛い。

 しかも、被害は一隻だけではない。


「洋鶴も被雷! 速力低下! あ、生駒も攻撃されました。爆弾及び魚雷、複数命中。傾斜が急速に増しています!」


 同じ部隊の雲龍型の一隻、生駒も攻撃を受けていた。

 雲龍型は翔鶴型の三万トンに比べ排水量が一万五千トンと小さい。

 その分、少ない鋼材で作れるが、耐久力が低い。

 これでもアメリカの護衛空母より大きく、カタパルトがないため最低限の大きさにしてある。

 だが、大きすぎて建造コストが高い。

 建造期間も長く、アメリカに比べ日本に空母が少ない理由の一つだ。

 それでも日本空母はアメリカ空母――護衛空母などに比べて比較的大きく、被弾には強いはずだった。

 だが、それでも限界はあり、集中攻撃を受けては、許容範囲をすぐに逸脱する。

 排水量は重巡洋艦より少し大きい程度。

 魚雷と爆弾を複数食らっては耐えられない。


「生駒、転覆しました!」


 佐久田は時計を確認した被弾から転覆までの時間が短すぎる。

 大量の爆弾と魚雷を受けては、持ちこたえられない。

 戦時急造艦故の突貫工事による工事の精度の低下による脆弱性、乗員の急速育成により応急作業への習熟不足もあるだろう。

 だが、根本的には敵の圧倒的攻撃力、全てを押し流すが如き濁流の前には耐えきれない。

 生駒はその後、船首から沈没していったという報告が入った。


「第五部隊にも敵機が集中しています。御嶽と穂高が被弾。傾斜しています」


 御嶽と穂高も雲龍型の同型艦だ。

 防戦の様子を聞いていると、第五部隊も不利なようだ。

 第一部隊より少ないが改秋月型駆逐艦を主力とする護衛を付けており、十分な防空戦力があるはずだ。

 だが多数の敵機を前にしては十分ではなかった。


「御嶽沈没! 穂高炎上中!」


 次々と空母の損害報告が入る。

 敵艦隊を発見したときは上手く米軍にカウンターを食らわせられた、打撃を与えられた、と佐久田は思った。

 だが米軍も一筋縄ではいかない。

 劣勢の中でも見事に反撃してきた。


「やはり三年も戦い続けられる陣営は意気込みが違うな」


 佐久田は、米軍のしぶとさを改めて思い知らされた。


「感心している場合ではないだろう」


 横にいた山口が窘める。


「その対処をするのが貴様の役目だろう」

「勿論です」


 すぐに佐久田は対処法を考え始め、すぐに進言する。


「長官、第一部隊と第二部隊を反転させ後方の部隊に合流して、護衛対象を少なくしましょう。直衛機の数を増やし、敵の突破を防ぎます」

「直ちに命令を下せ」


 山口も承諾した。

 敵の攻撃を防御力と耐久力に優れる装甲空母に集中させ全体の被害を減少させたかったが上手くいかなかった。

 敵は余程、頭の切れる、日本軍の弱点を良く知る人間のようだ。

 この分だと、防御力に優れる第一部隊と第二部隊に敵機が集中することはない。

 ならば後方の部隊共々守った方が安全だ。

 艦隊の方はひとまず問題ない。

 だが、問題なのは第一機動艦隊が自らを守るだけで済まない状況だ。


「船団と陸上の状況は?」

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