装甲空母と通常型空母

「直ちに第一部隊と第二部隊にいる護衛戦闘機隊を向かわせろ! 全機を迎撃に向かわせろ! 絶対に第三部隊に到達させるな!」


 珍しく佐久田の慌てる声が響き、命令が下る。


「それでは我々の上空が丸裸になるぞ」


 一瞬驚いて声が出なかった山口が止めに入るが、佐久田は止まらない。


「ええ、そうです。ですが構いません。敵が狙っているのは敵は我々信濃型、大鳳型の装甲空母ではなく、雲龍型などの通常型空母です」

「量産空母だぞ。小さく、数も多い」


 飛龍型の設計を応用した雲龍型は戦時量産型として生産されている空母だ。

 第一機動艦隊の数の上での主力であり、数の少ない装甲空母を補っている存在だ。


「だからです。数の主力、隻数も艦載機の総量も多いです」


 装甲空母である信濃型や大鳳型は百機近い艦載機を搭載できるし防御力も優れている。

 だが、建造に時間が掛かる上高価なので、建造数は少ない。

 改大鳳型の三番艦がようやく大連の北山の造船所で最終艤装を行っている最中だ。

 そのため、安価で材料も少なく短い建造期間で作れる雲龍型が数の主力になっていた。

 発進する攻撃機の総数も雲龍型の方が多い。


「ですが、雲龍型の防御力は低く、攻撃を食らえば、すぐさま発着艦不能になります」


 装甲を張られた信濃型と違って二五番爆弾一発で発着艦不能――戦闘不能、攻撃隊が出せなくなり機動部隊の攻撃力減少になりかねない。

 そのため、通常型空母は、更に一〇〇キロ後方へ下げ安全を確保した。

 船団と後方の部隊に近づけさせないよう、敵の攻撃を集中させるために防御の高い、装甲空母と戦艦を中心とした部隊を前に出していた。

 その代わり、護衛戦闘機と防空艦を多く付けた。

 高価な分、大事な大型装甲空母を守り抜きたいと思うのは普通の感覚だ。

 だが、敵は、米軍機動部隊は第一部隊、防御力の高い信濃型、大鳳型を無視して後方へ、防御力の弱い通常型空母の雲龍型空母群へ攻撃を仕掛けてきた。

 迅速に対応、敵の攻撃を受ける前に空母を守り切り、第一機動艦隊の攻撃力を確保しなければならない。


「分かった。すぐに指示を出せ」

「はいっ」


 山口も事の重大さに気がつき、承諾する。


「第一部隊及び第二部隊の護衛戦闘機を敵攻撃隊へ回すんだ! 敵機を、後方の部隊に近づけさせるな!」

「はい」

「間に合ってくれよ」


 佐久田の指示通りに、信濃の管制室に配置された管制官達が上空の戦闘機隊へ指示を出し、敵攻撃隊が向かう後方の味方空母へ急行するよう命じる。

 敵機の位置と、艦隊の位置から針路を予測し、味方の戦闘機を急行させる。

 だが、攻撃機の数が多い上に、船団とサイパン島へ戦闘機を派遣していた上、装甲空母の上空にも戦闘機を出していたため、対応出来る数が少なく、突破を許してしまう。


「敵攻撃隊。後方の空母部隊に襲撃を仕掛け始めました」

「戦況はどうだ!」


 山口が尋ねる。

 第一部隊の上空にいた戦闘機隊はまだ後方の味方に到着していない。


「第四部隊に敵機が殺到しています! 突破されました!」


 いかに少数精鋭でも、多数の敵機が殺到したら全てを撃墜できない。

 取りこぼしが発生したのは当然だった。

 そして非常な結末を予想された悲劇を、通信員は、第四部隊の悲鳴じみた報告と共に伝える。


「敵が輪型陣の内部へ侵入! 空母へ向かっています! あっ鳳鶴と洋鶴が攻撃されています!」


 開戦に備えて建造された改翔鶴級の二隻が攻撃を受けていた。

 どの艦も、特殊鋼を排除し通常鋼のみで建造。建造コストを抑えるため、曲線を配するなどの戦時急造艦として建造された。

 お陰で、翔鶴型の半分の時間で建造できた。

 しかし、それでも建造コストが大きいため、改飛龍型の雲龍型へ生産を移している。

 だがその分、防御力が高く、損害は低く抑えられるのではないかと期待した。

 しかし幻想だった。


「鳳鶴! 飛行甲板大破、雷撃も受け浸水! 傾斜発生! 発着艦不能!」


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