日米攻撃隊の動き

「閣下! スプールアンス長官! ご指示を!」

「はっ」


 スプールアンスは参謀長に言われてようやく我に返った。

 予想外の展開、日本軍に全ての作戦を、自分の頭を覗かれたのではないかと言えるほど、見事なカウンターを受け、あまりの衝撃に意識が飛んでしまった。

 しかし、意識を取り戻したスプールアンスは知将の名に恥じないスピードで復帰し、状況を確認する。

 一ヶ月近くも孤立状態にしてしまったマリアナの味方を救うために最短距離で走らせたのが不味かったのだろう。

 敵はこちらの動きを読んでいた。

 失態だったが、やらずにはいられなかった。

 敵が混乱して迎撃出来ないと考えていたこともあった。

 やはり、もう一日二日、攻撃を延期するべきだったか。

 いや、翌日も翌々日も、警戒しているハズだ。


「ええい、そんな事は今どうでも良い」


 敵は冷静にこちらの動きを予測し迎撃してきた。

 恐ろしい敵だ。

 対峙しなければならない、しかも早急に対応策を出さなければ敵の攻撃隊が来てしまう。

 自らの失敗の原因を考えるより対応策を、拙速であろうと出さなければならない。

 一分ほど考えスプールアンスは、命令を下した。


「待機中の攻撃隊をすぐに全機出すんだ。敵艦隊を攻撃させろ。その後、艦隊上空の直衛機も緊急発艦させろ。向かってくる敵攻撃隊を迎撃するんだ」

「了解!」


 スプールアンスに迷っている暇は無かった。

 兎に角、接近中の敵、日本の攻撃隊が艦隊上空に現れる前に全機発進させなければ。

 日本艦隊を見つけた、見つからなかったときは船団を攻撃するための攻撃隊が各空母の甲板に待機している。

 可燃物である爆弾魚雷を満載し、燃料満タンの艦載機を飛行甲板から発艦させ空母を空にする。

 これで空母の炎上は防げる。


「間に合ってくれ」


 レーダーピケット艦が敵機を発見したのはおよそ一五〇から二〇〇キロ。

 最短二〇分で攻撃を仕掛けられる位置だ。

 敵機が来る前に、全機発艦して貰いたい。

 そして、スプールアンスは賭けに勝った。

 スプールアンスの迅速な指示を受け、各空母は次々と攻撃隊を発艦。

 予め準備していた事もあり、いつも以上のスピードで飛び立っていく

 遠くの方で砲弾が炸裂しはじめた瞬間、最後の一機が飛び立った。


「よし」


 ひとまず、甲板で炎上する危険性は低くなった。

 続いて直衛機が発進し始める。

 彼らは、外周に向かって、爆煙が上空に生まれる空域へ向かって矢のように飛んでいく。

 輪型陣の外側で戦闘が始まったのだ。

 ここからでは、防空戦闘を見られないし、スプールアンスの役目ではない。

 彼には他にする事があった。

 そして、決断の時が来た。


「長官、新たな敵艦隊が発見されました。通常型の空母を多数とする。艦隊です」

「攻撃隊に指示を出せ。新たに発見された敵艦隊に攻撃を仕掛ける様に命令だ!」

「はいっ」


 間伐入れずにスプールアンスは指示し部下達は指揮下の部隊に指示を出す。

 敵が迫ってる中、残り少ない時間を有効活用しなければ、負けてしまう。

 彼らは、早口に指示を飛ばした。




「敵の攻撃隊が接近してきます」

「上手く発進出来たか。いや、敵の指揮官の判断と決断が早いな」


 信濃で敵攻撃隊と接触した哨戒機からの報告を受けた佐久田は唸った。

 船団攻撃の準備していたのか、思ったよりも敵の攻撃隊が出てくるのが早かった。

 出来れば、もう少し迷い敵攻撃隊が発艦する直前に味方攻撃隊が攻撃を仕掛けて欲しかった。

 ミッドウェーの意趣返しだが、判断が素早く敵の空母は空になり炎上要素はなくなった。

 残念だが、これは想定内だ。


「迎撃機に出撃を命令。第一部隊と第二部隊は全速で敵攻撃隊の前へ。他の部隊は後退」


 いつも通り、装甲空母群と戦艦を前に出して敵の攻撃隊を吸収する予定だ。

 だが、ここで予想外の事態が起きる。


「敵の攻撃隊が針路を変更」


「攻撃を取りやめたか。それとも我が攻撃隊を狙っているのか」


 南太平洋海戦で双方の攻撃隊がすれ違い、日本軍の攻撃隊の護衛戦闘機が攻撃に出て行った事例はある。

 ただ、これは失敗だった。

 攻撃隊は丸裸になり、敵空母直衛戦闘機の餌食となって大損害を受けた。

 以後、敵攻撃隊への対処は艦隊が行う事と決まっている。

 米側は、別の方法論を見つけ、あえて攻撃隊から戦闘機を出して、味方攻撃隊を攻撃するのか、あるいは哨戒機が敵の迎撃戦闘機部隊と誤認したのかと佐久田は考える。

 しかし、どの推測も間違っていた。


「哨戒機より続報! 後方の第三部隊以下の部隊へ向かいます」

「……しまった!」


 佐久田は思わず叫んだ。

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