第一機動艦隊の待ち伏せ
「索敵機より報告! 敵空母発見!」
「やっぱり来たか! 攻撃隊発進!」
「了解!」
山口の号令とと共に、信濃の甲板に待機していた三六機の攻撃隊が発進していく。
信濃だけではない、第一機動艦隊の各空母の甲板で待機していた攻撃隊――ロケット弾をフル装備し、魚雷と徹甲爆弾を最大限に積み込み、燃料を満タンに満たし、エンジンを暖機して準備万端に整えていた帝国海軍の精鋭。
爪を研ぎ澄ませていた海鷲達を、彼らの宿り木である巨大空母軍が次々と飛び立たせ、三百機を越える大攻撃隊を上空へ送り出した。
最初の機から最終機までの発艦に時間が掛かるため、攻撃隊は、全機が揃うまで空母群の上空を旋回し編隊を組み上げていく。
徐々に巨大になっていく編隊の姿は、まさしく鳥の群れを想像させるに相応しい大群だった。
「よくやった佐久田」
「まさか、本当に来るとは」
山口は褒めるが佐久田自身はまだ、信じられなかった。
東京攻撃の後、もしマリアナ方面へ急行し援護を行うなら、という仮定で敵艦隊の針路を推測しただけだ。
硫黄島の索敵圏外を通り、補給船団から給油を受けた後、最短でマリアナへ向かうルートを想定。
サイパン島周辺へ出来るだけ接近し日本の船団へ奇襲を行う、と想定して作戦案を立てた。
まず敵が攻撃するであろう、船団とサイパン島に戦闘機隊を派遣し待ち伏せする。
敵は奇襲するため低空を飛ぶから、簡単に頭上を取れるので優位に戦える。
しかも、母艦を発艦して、遠くから飛んできているし引き返す必要があるため、長時間上空に留まることが出来ない。
待ち伏せた戦闘機隊は敵機を簡単に撃墜できると想定していた。
実際、敵機を発見したあと、ロケット弾の集中攻撃で撃破し、バラバラになった敵攻撃隊を襲撃しかなりの損害を負わせることが出来た。
同時に敵空母を攻撃する作戦も考えた。
サイパン島を中心に、北東方向を基準に索敵線を設定。
三段索敵を行い、夜明け前から偵察機を出撃させ、敵空母を捜索。
夜明けと共に一時間で、半径一五〇〇キロの海域を全て捜索し敵艦隊を発見。
見つけ次第、夜明け前に出撃準備を整えた攻撃隊を発艦させ、攻撃させる。
これで敵は、かなりの打撃を受けるはず。
あとは、ガチの殴り合い、互いに攻撃機を飛ばし、空母を叩き合うだけだ。
ただ、奇襲を成功させただけ、日本側が有利だ。
「しかし、本当にやってくるとは」
再び佐久田は驚きの言葉を口にした。
敵がすぐにマリアナ方面へ急行するかどうかは半々だった。
血気盛んな人間なら、マリアナを救うためにやってくるだろう。
だが、最短距離を進むのは、敵に予測されやすいコースを進む事であり、今みたいに待ち伏せされる。
佐久田が米軍の指揮官なら一日か二日おいて、行方をくらまし、敵の警戒を解いてから、攻撃を仕掛ける。
敵の指揮官は、焦っていたのか、味方を救いたいと思ったせいなのか、最短距離を進んだ。
そこに見事はまってくれた。
今日備えたのは念のためだ。
もしも敵が見つからなかったら二、三日やる予定だった。
そして敵が仕掛けてくるなら硫黄島とマリアナ諸島。
夜間発艦、夜明けの奇襲攻撃のため、艦隊を発見するのは不可能だから陸上目標、もしくは陸上近辺の船団しか攻撃出来ない。
予め戦闘機隊を発進させマリアナ諸島上空で待ち伏せさせていた。
これで硫黄島とマリアナの船団は守られるはず。
「さあ、こっちからも始めるぞ! 第二波攻撃隊の準備を始めろ!」
当分の間、守るべき味方が安全なことを確信した山口は威勢良く命じた。
「敵の空母を必ず仕留めるんだ!」
佐久田は止めなかった。
山口の意見が正しいし、ここで手を止めて良い場面ではない。
むしろ不意打ち出来た好機を最大限に生かすために、攻撃機を立て続けに出さなければならない。
そのためにも山口には徹底的に各指揮官を叱咤激励して敵艦隊に攻撃機を送り込んで貰いたい。
それが唯一の第一機動艦隊が採り得る手段であり、勝算のある戦い方だった。
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