日本の敗北

 藤山邸でのシミュレーションは兵棋演習から図上演習へ移行。

 ルールの改定と数値の確認、規模拡大に伴う最低限の変更を行った後、再開された。

 マリアナ奪回を阻止した後、佐久田指揮する米国はマリアナの航空基地を復旧させB29の空襲を再開させた。

 ただ、B29の作戦目標は変更した。

 軍需工場及び都市への空爆は少なくして鉄道線へ、特に東海道本線と山陽本線、関門トンネルへの空襲を増やした。

 日本の二大交通手段の片方が鉄道であり、軍隊輸送にも使われている。

 物流を寸断する佐久田の作戦は的を射ていた。

 空襲が起こる度に、本土の生産力は低下していった。

 実際、ドイツでも四二年から連合軍の空爆は行われていたが、工場を空襲してもすぐに復旧出来たため効果は少なかった。

 だが、物流を支える鉄道を破壊すると、物資の輸送が滞りはじめ、生産力は低下した。

 工場が無事でも、原材料と部品が手に入らないのだ。

 備蓄である程度は生産を継続できたが、輸送路が破壊されたため製品を送り出すことが出来なくなり、工場に完成品と未完成品が積み上げられる現象が発生した。

 一通り鉄道を破壊すると佐久田はB29に機雷を搭載させ、主要な海峡と港湾に機雷敷設を行い、海上封鎖を始めた。

 物資輸送の大半を船舶輸送に頼っていた日本には大ダメージだった。

 朝鮮半島から米を、満州から大豆を、大陸から鉄を、南方から石油や希少金属を輸入しているだけに、被害は大きかった。

 原料不足で工場の稼働率が低下して行き、マリアナで大損害を受けた第一機動艦隊の修理と戦力回復は遅れた。

 戦力の回復が遅れる日本側の指揮官は、数値が間違っているのではないか、と抗議したがメンバーの中には企画院や軍需省のメンバーもおり、資源、工業生産の数値に間違いはなく、輸入途絶による生産力の低下は明白だった。

 むしろ、軍人以上に彼らの顔が青くなったことが数値の正確さ深刻さを証明していた。

 空襲で帝都は焼け野原になったが、まだ再建できる、という希望があった。

 しかし、再建の為の資材が入らないという事態に彼らは恐れおののいた。

 それでも生き残った船団を使い、度重なる空襲と機雷による損害を受けつつ日本の商船団による輸入は細々と続けられた。

 だが、佐久田は、その最後の息の根さえトドメを刺すべく、沖縄へ侵攻を開始した。

 一応、佐久田は硫黄島への再攻撃を考えたが、長期間の戦いとなり先の戦いと同じように、後方を攻撃される可能性が高い。

 それに占領したところで空襲がし易くなるだけだ。

 だが、沖縄は違う。

 南方とのシーレーンの中間地点にあり、石油輸入を絶つことが出来る。

 東シナ海へも進出し大陸との連絡路を破壊できる。

 沖縄を航空基地にして九州全体を航空作戦基地に出来る。

 日本の交通の要、半島と大陸を結ぶ要衝である九州を破壊する事が出来る。

 これまで攻撃圏外だった、東シナ海への侵入も可能になり、大陸との航路を遮断する事が出来る。

 以上の合理的理由から沖縄へ侵攻した。

 日本側は、硫黄島への再侵攻を予想していただけに虚を突かれた。

 一応、沖縄の守備も固めていたが、佐久田の事だから他の方面への奇襲をかけるだろう、と予測し、シーレーン上の各要衝、本土は勿論、台湾、フィリピン、南方に守備兵力を分散させた。

 結果、沖縄の守備兵力が減ってしまい、日本側は易々と沖縄上陸を許した

 すぐに、米軍沖縄攻略船団の後ろを、補給線を突くべく、マリアナ方面へ再建途上の第一機動艦隊を進出させる。

 だが、沖縄から引き返してきた佐久田の米軍機動部隊に捕捉された。戦力回復途上の日本機動部隊は撃滅され、敗北した。

 沖縄は占領され日本はシーレーンは絶たれた。

 佐久田の目論見通り、東シナ海の航路も寸断。日本への輸入は目に見えて減っていく。

 日本軍は戦力回復もままならず、空襲も酷くなる。

 更に硫黄島へ再侵攻が始まり、二ヶ月の抵抗の末、完全に占領された。

 硫黄島から陸上戦闘機が日本本土を飛ぶようになり空襲は更に酷いものとなる。

 国内の食料生産も供給も低下。

 しかも交通網が寸断され物流が滞り、国内に食料はあっても国民に食料が届かなくなる。

 年明けには遂に本土で餓死者が出始める。

 日本側はアメリカ側に講和を求めるが、出された回答は無条件降伏だった。

 なおも日本側は戦いを続けるが、餓死者が続出。

 米軍が南九州への上陸の後、関東へ上陸作戦を開始したとき、日本側は無条件降伏を受け入れるしか選択肢がなかった。

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