マリアナを防衛できるか
佐久田の疑念に多数の情報源を保つ高木惣吉が答えた。
「政府内でもマリアナは奪回できると考えてる人間は多く、今は戦争継続派が多い。マリアナを奪回すれば戦い続けられる。それどころか、マーシャル、ラバウルを奪い返し、ハワイ、米本土と行けるなんて言っている者もいる」
「馬鹿な。補給が保ちませんし、アメリカ本土に近づけば米軍の補給が潤沢になり戦力が倍加します」
「それを理解していない人間が多い。二度もハワイ空襲が出来たのだから、三度目も、ついでに上陸できると考えている人間もいる」
高木惣吉の言葉に佐久田は黙り込んだ。
二度目のハワイ空襲成功は佐久田の手によるものだ。
硫黄島を囮にして成功させた作戦のため、同じ手は使えないだろう。
なのに二度目があると信じている人間がいる、しかも彼らの根拠が佐久田の立案し成功させた作戦だ。
黙らせることは難しい。
「それで今の作戦が成功してマリアナは防衛できますか?」
「難しいでしょう」
北山の問いに佐久田は答えた。
「米軍の攻撃は激しいです。去年の防衛にも失敗しています。米軍が本気で攻撃を仕掛けてくるようになれば、保持は最早不可能です」
佐久田は断言した。
マリアナ防衛の図上演習を行ったが、米軍の戦力が圧倒的すぎて、防衛出来ない。
米軍の後方を叩くなどの手段を講じても、すぐに対応されてしまっている。
海軍部内でさえ、佐久田のやり方を知り始めている。
これでは米軍にも手の内を読まれていると考えた方が良い。
「新たな作戦は考えますが、戦争終結が最優先です。戦い続けるなど不可能です。長引けば長引くほど、国力の差により、米軍の勝ち目が高くなります」
佐久田の言っていることは正しかった。
戦力が補充されるアメリカと、戦力補充が出来ない日本。
何処かで一度負ければ日本は転がるように転落していく。
「今回の戦いでもですか?」
北山は浮かんだ疑問を述べた。
「といいますと」
「マリアナの制圧が遅れています。米軍の来襲があるのでは?」
「はい、可能性は高まっています」
佐久田は言った。
サイパン島上陸作戦は三日で終わらせる予定だった。
これは物資や連合艦隊の行動能力という意味でも区切られていたが、米軍の反撃が行われる前に制圧したいからだ。
一週間以上かかれば米軍がやってくる可能性が高い。
迅速に攻略しようとあえて分散し同時に攻撃したのも迅速に作戦を終了させるためだ。
その意味では同時上陸は間違っていない。
だが、兵力の分散になって仕舞って、制圧に時間が掛かっている。
「米軍が攻略船団に攻撃を仕掛けてきたら危険では?」
「はい、一応、マリアナ救援にやってくる米軍機動部隊を迎撃出来る計算ですが」
佐久田は歯切れ悪く言った。
船団を守りながらという不利を背負うが、硫黄島の支援もあり、マリアナへ救援にやってくる米軍機動部隊を迎撃する事は可能だ。
「マリアナ救援?」
佐久田は違和感を抱き、呟いた。
マリアナが米軍にとって大事なのは理解している。しかし、すぐに救援するほど大事な島か。
ウォッゼを叩かれて、補給線はガタガタだし、日本本土への空襲も上手くいっていない。
現状では価値があるかどうか微妙な島だ。
米陸軍が必死に抵抗しているが、いざとなれば開戦劈頭のコレヒドールのように降伏してしまっても構わない。
レイテで多くの陸上兵力が失われているが、まだ多くの予備兵力が米軍にはいる。
マリアナに固執する可能性は低い。
「マリアナへやってくる可能性は低いのでは」
「アメリカ陸軍の師団が守っているぞ。助け出そうとするのではないか?」
「いえ、必ずしも守るとは思えません。時間稼ぎに使われてる可能性があります」
海の戦いでは自由に動ける艦隊が優先であり島に配置された部隊は二の次だ。
どう艦隊を動かし、何処を攻撃させるかが重要なのだ。
「では、何処を狙うというのだ。佐久田、貴様のように後方を狙うというのか」
高木の言葉に佐久田ははっとした。
現状の日本軍に一つ、大きな穴を見つけたのだ。
「……ブレイントラストの今日の参加者には、海軍関係者はいましたよね」
「ああ、いるが」
マリアナ後を考えるため会合を開くため、メンバーが集まっていた。
「大至急、確認したいことがあります。一寸演習を行いたいのですが」
「ここで図上演習を行いたいのか?」
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