ルメイの苛立ち
「ええい! 日本軍め! しつこいぞ!」
第二一爆撃集団司令官カーチス・ルメイは叫んだ。
ハワイに続いてウォッゼが破壊され、補給が締め上げられている。
結果、日本本土への爆撃の為の物資が備蓄できず、爆撃の回数は少なかった。
しかも、硫黄島が攻略できなかったため、攻略軍が、ルメイの表現で言えば<無様に>引き返したため、日本軍のマリアナへの攻撃が再開された。
お陰で、B29の出撃もままならない。
施設が攻撃を受け復旧に時間が掛かるし、B29を守る為に避難させなければならない。
そもそも
「報復しろ! 徹底的に倒せ!」
勿論ルメイも殴られっぱなしでは、なかった。
硫黄島へB24の空爆を行わせ、基地能力の低下を目論んだ。
だが、地下陣地を構築した日本軍に大きな損害を与えることは出来ず、マリアナへの攻撃を止める事は出来なかった。
「損害はどうなっている!」
「日本軍の空襲で機材の被害も甚大ですが、滑走路が破壊され、戦闘機の発進も不可能です」
「くそっ!」
梅花に紛れて、日本軍は攻撃機を発進させてきている。
原始的な巡航ミサイルと違い、人の手による正確な爆撃で滑走路を攻撃しているため、B29は勿論迎撃の為の戦闘機も離陸させることが出来なくなっていた。
「工兵隊の努力により明朝までに修復は可能です」
「急げ! あの硫黄島を、岩と砂だけの島を吹き飛ばして海に沈めてやるんだ!」
ルメイは改めて怒鳴り散らす。
だが、それが無理な事は分かっていた。
ハワイを破壊され、補給路を断たれている。
船団が来ないため、戦略爆撃に必要な燃料弾薬が、膨大な物資を消費するB29へ供給する消耗品が、なくなりつつあるのだ。
補給の見込みは無きに等しい。
日本軍の潜水艦が、太平洋上を跋扈し襲撃している。
空母が護衛する大規模な補給船団が送られてきたこともあったが、それは日本機動部隊の襲撃により、空母もろとも海の底に沈んだ。
今では本土空襲どころか、マリアナを維持するだけで精一杯だった。
だが、気弱な所を指揮官が部下に見せる訳にはいかなかった。
厳しい状況だからこそ、怒鳴り、動き回り、景気の良い話をして士気を上げる必要があった。
ヨーロッパ戦線でやったように、帝都空襲を成功させたときのように、怒鳴り散らすしかないのだ。
「その後は本土を火の海にするんだ。都市爆撃に出撃しジャップの本土を焦土にしてくれる!」
戦略爆撃の優位性を信仰するルメイはなおも本土爆撃を主張した。
成功させなければ、国際法上、無差別爆撃は黒に近いグレーのため、訴追される可能性がある。
勝てば官軍、であり勝利が全てを正当化する。負けるわけにはいかない。
それに戦後、陸軍から陸軍航空隊が独立し、空軍となるためにもこの戦争で大きな成果を上げる必要がある。
ヨーロッパだけでなく太平洋でも戦略爆撃の優位性を証明し、全世界で活動出来ることを、作戦行動が行え勝利出来ることを示さなくてはならない。
「ジャップ共に邪魔されて堪るか!」
だからこそ、こんなところで足止めされているわけにはいかなかった。
自分の将来の地位の確立のためにも、絶対に日本を焦土にして完全な勝利、日本が抵抗も抗議も出来ないほど徹底的に叩かなければならない。
「そもそも、海軍の連中がだらしないからこんなことになるんだ。硫黄島さえ手に入れば護衛戦闘機を出して空襲はもっと上手くいったんだ」
ルメイの言うことも一理あったがあ、その前提として、海軍や海兵隊の協力――彼らが血を流して島を確保しなければならない事を忘れていた。
そもそも本土空襲を行うために、マリアナに到達するまでに海軍と海兵隊、そして陸軍の地上部隊がどれほど激戦を繰り広げてきたか、彼らが確保した島を通じてようやく、マリアナへ進出できたことを忘れていた。
その忘恩の報いは、すぐに下された。
夜明けと共に、周囲に爆発音が響く。
「何だ! 今までの空襲と違うぞ!」
連続する爆発音にロケット弾。そして、単発の航空機の音。
足の長い日本軍の機体なら来られないこともないが、長距離飛行を強いられるため飛んでくることは希。
それも護衛戦闘機か制空機としての仕事に徹する。
地上攻撃などしない。
「ジャップの空母か! ウォッゼから戻ってきたか!」
地上攻撃を仕掛ける単発機は空母機動部隊しか居なかった。しかも数からして日本軍の主力だ。
「畜生! 海軍のアホ共は何をやっていたんだ」
「司令官! お早く!」
幕僚は叫び続けるルメイを引っ張り退避させた。
おっかない指揮官だが、陸軍航空隊を存続させるためには、将来空軍として独立するには、ルメイのような指揮官が必要なのだ。
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