豊田大将の歓喜
「ウォッゼの無力化に成功しました」
「よし! これで米軍は補給路と救援部隊の進路を絶たれたぞ」
日吉の連合艦隊司令部に機動部隊の作戦成功の報告が舞い込むと豊田長官は喜びの声を上げた。
マリアナ以来、フィリピン、レイテと勝利は収めてきていたが、全て米軍の迎撃のみ。
それも後方を叩く事で得られた成果だ。
いや、ソロモンの戦いからずっと、日本軍は迎撃と撤退作戦ばかり。
開戦劈頭のような快進撃は無く占領した太平洋の島々を次々と、奪回されていくばかり。
全て敵からの攻撃を待ち受けるだけであり、時に反撃しても、島を攻め取ったわけではない。
その結果、マリアナを奪われ、本土を空襲されてしまう所まで、退いてしまった。
結果、守るべき本土は空襲に遭い、多くの人々が戦火に焼け出されている。
この光景を豊田は忸怩たる思いで眺めるしかなかった。
だが、それも今日で終わりであり、今回の作戦は違う。
奪回戦とはいえ、前に進み島へ、マリアナへ上陸する。
米軍の占領する島に日本軍が攻め入り奪うのだ。
これまでの劣勢、撤退から反転攻勢に出るのだ。
「絶対に成功させ、盛り返す」
豊田はこれを足が掛かりに再び米本土を目指したかった。
確かに絶対国防圏の再構築は必要だし、本土防衛も必要だ。
しかし、軍人として前に、積極的に前進したかった。
徐々に後退するなど身体を削られるようなものであり、豪傑肌の豊田には合わなかった。
武人ならば勝って、敵を下したい。
米本土まで攻め込み、講和を結べれば良いと思っている。
現在は無理だと分かっている。
国力の差は理解している。
しかし、絶対国防圏を回復し、長期持久体制を構築すれば不可能では無いと豊田は考えていた。
ヨーロッパのドイツも盛り返せば、米軍はそちらにも戦力を送り込む必要があり、日本へ送る戦力が小さくなる。
戦い抜ける可能性は低くはない。
ヨーロッパへアメリカの目が向いている間に、日本にとって有利な島々を確保し、持久体制を整えたいと考えていた。
これは政府上層部も同様の考えだ。
講和の交渉が不調だった今、優位な条件を出して和平を果たすために長く戦うしかない。
それだけに豊田は、なんとしてもマリアナ奪回作戦を成功させたかった。
「機動部隊はどうしている?」
「はい、作戦通り、ウォッゼへの攻撃を継続しております。繰り返し攻撃隊を出し、米軍基地や停泊している船団を沈めております。大」
「よし機動艦隊は予定通り、作戦を継続。マリアナ奪回作戦参加部隊には作戦続行、大気中の部隊には出撃命令を下せ」
「了解!」
直ちに大湊と鎮海湾にいる上陸部隊に出撃命令が下る。
陸軍の三個師団、第五師団、第一海上機動師団、第二海上機動師団を載せた六〇万トンの船舶とそれを守る護衛部隊だ。
彼らはB29の空襲圏外である日本海側の停泊地で待機していたが、命令を受領後、出撃。
津軽海峡もしくは対馬海峡から大隅海峡を経て、太平洋上の伊豆諸島沖で合流。
上陸船団を構成し南下。
目標となるマリアナ上陸を目指す手はずだ。
移動するのに一週間ほどかかる予定だ。
勿論その間、日本側は何もしないわけではない。
「続けて硫黄島に展開する第二七航空戦隊に命令。マリアナへの攻撃を開始させろ」
「了解!」
硫黄島に展開する第二七航空戦隊へ命令が下った。
奪回されたばかりの硫黄島だったが、大量の人員を投入し、すぐに基地機能を回復。
多数の航空機と装備を送られ、第二七航空戦隊は急速に戦力を回復した。
全てはマリアナ奪回作戦のためである。
修復されたカタパルトから巡航ミサイルである梅花が発射され、マリアナへ恒常的な爆撃を行う。
命中率は低いが、絶え間ない攻撃で米軍を抑えるのが役目だ。
また、迎撃に戦力を使わせることで、上陸作戦への備えを疎かにさせるのが目的だ。
ミサイルは緩急を付けて昼夜を問わず、発射されていった。
巡航ミサイルだけではなかった。
ある程度、米軍の警戒網が疎かになると、硫黄島より攻撃機が発進。夜間の奇襲攻撃によりマリアナの航空基地を空爆する様になる。
連日、空襲を行いマリアナの航空基地へ打撃を与えていった。
全ては奪回作戦のためだった。
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