第五艦隊の行動
「日本軍がウォッゼに攻撃を仕掛けました!」
「やはり来たか」
ハワイの東方洋上を航行していたスプールアンスは頷いた。
日本軍なら攻略目標の後方を攻撃。
目標を周囲から孤立、特に補給線を破壊してから攻撃してくると考えられていた。
元はアメリカ軍のやり方、飛び石作戦から発展したものだから類推する事は出来る。
「日本軍の上陸目標はマリアナだろう」
だから日本軍の作戦も容易に見当が付いた。
「ウォッゼに上陸するのでは?」
「いや、あまりにも遠すぎる」
ウォッゼは米軍の重要拠点となっているが日本側からしたら本土から遠すぎて守れない。
マリアナへの補給路を絶てる位置にいるが、防衛が難しい。
前年の初頭に、米軍によって陥落させられたことからも、諸島の防衛が難しい事は日本軍も分かっている。
占領してもいずれ奪回されると分かっていれば、手出しするとは思えない。
補給路を断つならば、多少確実性は減るが、潜水艦と空母による連係攻撃で締め上げた方が結果的に効果的――上陸作戦での犠牲、その後奪回に出てくる米軍の攻撃による被害で数万人の損害が出ることを考えると、潜水艦十数隻と空母群一個程度の犠牲など軽い方だ。
「やはり、日本マリアナに向かうだろう」
だがB29の本土空襲を止めるためにマリアナを占領するなら十分に価値はある。
三月の帝都空襲をはじめ十数万の民間犠牲者が出たのならマリアナを奪回する価値は、必要性はある。
「太平洋艦隊司令部からは?」
「今、命令が入りました。第五艦隊は直ちにウォッゼ周辺へ進出。マリアナを救援し日本の作戦目標を粉砕するべく行動すべし」
「了解した」
簡潔な電文だったが既にニミッツとの打ち合わせは終わっており、この後どのように行動するかは既に理解していた。
「第五艦隊はこれより、ウォッゼ周辺へ進出。日本軍に横合いから攻撃を加え、作戦を妨害する」
「補給の心配があります。ウォッゼもハワイも補給能力は壊滅しているでしょう」
この前の空襲でハワイが壊滅し、今の空襲でウォッゼも壊滅し補給能力、艦隊支援能力は失われ、第五艦隊を支援する能力は無い。
そもそも艦隊がハワイと本土の中間に布陣したのは補給の心配があったからだ。
進出しても燃料切れで漂流する可能性があった。
勿論スプールアンスも理解していた。
「艦隊支援の補給部隊が後方にいる。彼らから補給を得られれば、問題は無い」
百隻近い補給艦、工作艦の艦隊が第五艦隊を支援するために後方にいた。
彼らが搭載する膨大な備蓄物資があれば、補給の心配なく、第五艦隊は行動できる。
「艦隊はウォッゼを目指して前進する。第五艦隊全艦に伝えろ」
「了解。しかし、補給艦が多いと航行速度が遅くなります」
空母群は三〇ノットの高速で航行出来るが、補給艦は十数ノット程度しか速力が出せない。
ウォッゼまで到達するのにかなりの時間がかかる。
「構わない。ウォッゼに着くまでに、日本軍の攻撃目標が分かるだろう」
日本軍の次の攻撃目標がマリアナだとスプールアンスは確信していたが、決め手がない。
最悪、肩透かしを受ける可能性がある。
だからスプールアンスは、ゆっくり行くことにした。
日本軍が上陸するのを待ち構える、いや上陸するのを望んでいた。
攻略目標が確定するし、何より、上陸部隊の援護のために日本軍はその貴重で最大の戦力、空母機動部隊を護衛と援護の為に上陸部隊から離れる事が出来なくなる。
広大な太平洋を神出鬼没に移動し攻撃してきた日本の機動部隊が、米軍を翻弄してきた悪魔が、一つの島に貼り付けられ身動きがとれなくなる。
これは、非常に大きな米軍側へのメリットとなる。
「ですが、日本軍の上陸があった場合、現地の味方守備隊は苦戦するでしょう」
「そうだ」
最大の懸念はその点だった。
日本軍の攻撃を彼らは正面から受け止めることになる。
そして、第五艦隊の救援が来るまで抗戦しなければならない。
彼らがどれだけ、持ちこたえてくれるかが、作戦の要だった。
「彼らの善戦に期待しよう。なに陸軍の友人は簡単にへこたれないし、海兵隊も頑張るだろう。それに我々はすぐに救援に向かうわけではないしな」
スプールアンスの独白は幸いにして誰の耳にも聞こえなかった。
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