スプールアンスの作戦案

 空母機動部隊は海を縦横無尽に移動することができるが補給が必要だ。

 後方から潤沢な武器弾薬燃料食料その他消耗品を受け取ることで始めて太平洋を自由に航行し作戦行動ができる。

 しかし補給基地が米本土に限定されている現状は、太平洋の反対側にあるマリアナ近海での作戦行動は不可能に近い。

 しかも、日本本土に近く、日本機動部隊は陸上航空兵力の支援を受けられる位置にいる。

 ニミッツ長官も日本軍が日本本土に近いマリアナに来るだろうことは予想していた。

 それでもハワイ近海に第五艦隊を止めた理由は、マリアナ近海での補給に懸念があったためと、日本軍の支援攻撃により艦隊が劣勢に立つこと、損害を受けることを懸念したためだ。


「下手をすれば待ち伏せをしていた我々が後方を奇襲されて孤立。各個撃破される可能性もある。空母は貴重になりつつある。失うわけにはいかない」


 このところ米軍の損害が増えており、日本軍の空母の数と米軍の空母の数が同じになりつつあった。

 マリアナは勝利したが、空母群を二つ失っている。

 フィリピンでも、補給に後退した空母群が、日本軍がウルシーを攻撃した帰りに遭遇してしまい、撃滅された。

 ハワイ再奇襲の時も、ハワイ近海で慣熟訓練をしていた空母群が撃滅され、地味に米軍の空母の数が減らされていた。

 勿論、戦時体制に入ったアメリカの工業力を以てすれば、補充も戦力増強も出来る。

 しかし、建造に時間が掛かり、新空母が前線に現れるには、最短で三ヶ月ほどかかる。

 艦載機の補充能力で勝っているが、無限に補充できるわけではなく、補充には時間がかかる。

 このまま米軍が優勢に持ち直すには、最低でも半年ほどの時間が掛かると予想されていた。

 それまでの間、損害を少なくして乗り切ることが太平洋艦隊司令部の方針だった。

 消極的な作戦になったのも、その点をニミッツが考慮しての事だった。


「では、どうなさるおつもりですか。マリアナを見殺しにするのですか?」

「ここは一つ日本軍の作戦を見習うことにしよう」


 スプールアンスは自分の考えを伝えた。


「……それは、味方の犠牲が大きいのでは」


 聞かされた幕僚は唖然とした。


「だが、効果的だろう」

「認めます。しかし、損害が、作戦内容に対する反発が予想されます」

「他に妥当な作戦があるのなら、採用するよ。いっそ司令長官を代わっても良い。どうだね? 代案はあるか?」

「……ありません」

「ならば皆を集めて作戦を立案してくれ」

「しかし……」

「これは命令だ」


 幕僚はスプールアンスをおもんばかって反対しようとした。しかしスプールアンスに拒絶されてしまった。


「……はい」


 結局、幕僚は従うしか無かった。

 スプールアンスは、笑みを作って幕僚に言う。


「いいか、キチンとやれよ。私の責任において命じたのだ。私が全責任を負う。君たちが悩む必要は無い」

「閣下はそれでよろしいのですか?」

「出来ればやりたくないよ。若者の命を見捨てるのだからね。だが、戦争だ。どんな作戦でも犠牲は付きものだ。一番犠牲の少ない作戦を立案することこそ、指揮官、司令官の役目だ。その結果は、全て引き受けるよ。作戦への非難も、遺族の怨嗟も。無駄な犠牲を出すより遙かにマシさ」


 スプールアンスは、静かに言った後、作戦を立案するよう改めて命じた。

 仕方なく、幕僚が集められ作戦の立案が始まった。

 幕僚達は基本計画を聞かされて、最初は絶句したが、他に良い方法が無いため、スプールアンスの指示に従って計画を練った。

 第五艦隊司令部で完成した作戦計画は直ちに太平洋艦隊司令部にスプールアンス自らが届けニミッツに見せた。

 見せられたニミッツは、しばらくの間黙り込んだが、極秘に指定した上で承諾した。

 そしてスプールアンスに作戦準備を命じ、日本軍の迎撃準備を始めた。

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