第五艦隊司令部の考え

「しかし、今回の作戦は消極的では?」


 スプールアンスが第五艦隊司令部に戻ると決定内容を聞いた若い参謀が尋ねた。


「長官がマリアナとおっしゃるのなら、ミッドウェーの時のように日本艦隊の近くまで進出し、待ち受けるべきでは?」


 ミッドウェー海戦では日本機動部隊がミッドウェー島空襲にやって来たところを、待ち構えていた米軍機動部隊が攻撃。

 空母多数を沈める戦果を上げた。

 米軍も損害を受けたが、開戦以来、日本軍の怒濤の進撃を始めて止める事の出来た輝かしい戦果であり、戦争の転換点となった。

 以後は日本軍は勇敢に戦ったが徐々に交代して行き、マリアナまで撤退している。

 今回も同じように待ち伏せ攻撃をするべきだと幕僚は考えていた。


「日本軍の攻撃目標が分からない。これでは手が出せない」


 スプールアンスは、幕僚を窘めた。

 ミッドウェーのときは事前に暗号解読して攻撃目標がわかっていた。

 だが今回は暗号解読が不十分、ハワイの暗号解読センターも破壊され日本軍の攻撃目標がわからなかった。


「日本軍の作戦が奇襲なのか、上陸なのかも分からない。そもそも目標地点も分からないのでは待ち伏せしようがない」


 強大な米海軍であっても太平洋はあまりにも広すぎるためとても全てを守りきることはできなかった。

 司令部で意見が割れたのも、攻撃目標となる地点が多すぎるからだ。


「確かに、多すぎて攻撃目標が判断できませんね」


 太平洋の海図を見て幕僚が同意した。

 海図を見るだけでも太平洋が広いことが分かる。

 そこへスプールアンスに幕僚は尋ねられた。


「君なら何処を狙う」

「私ならば、本土を空襲から守るためにB29の発進基地であるマリアナ奪回を行います」


 躊躇なく幕僚が答えた。

 度重なる空襲被害を受けているのなら、空襲できないように基地を破壊する事を考えるはずだ。

 しかも、空襲のためにB29を発進させるために日本本土近くに設置されていることもあり、日本軍が攻め込みやすい位置にいる。

 日本軍が攻撃しないはずが、奪回の為に上陸しないはずがなかった。


「ではなぜ、太平洋艦隊は我が第五艦隊をマリアナ近海に進めようとしない」

「日本軍が他の基地を攻撃する可能性が非常に高いからです。特に後方基地を襲撃する可能性が高く、日本軍の攻撃に備え後方に配備せざるを得ません」


 これまで日本軍、いや佐久田は、常識に沿った作戦を計画した。

 だが実行段階では、成功率を上げるため予想外の箇所、特に補給路である後方基地に奇襲攻撃を仕掛け動揺を誘ってきた。

 フィリピンの時に後方のウルシーを襲撃したり、硫黄島防衛の為にハワイを奇襲して成功させた。


「日本軍はまた同じ作戦を取る可能性が高いです」

「逆に言えば何処かに奇襲を受けた後、日本軍はマリアナに来るということだな。ミッドウェーの時のように」


 ミッドウェー海戦では、日本軍は陽動作戦としてアリューシャン方面に侵攻し、米軍を引き寄せようとした。

 だが暗号解読によりミッドウェーが攻撃目標と知っていたためスプールアンス達は引っかからず、救援には赴かなかった。

 結局、日本軍の作戦行動は兵力分散となり、ミッドウェーでの敗北に繋がった。


「そうですね。奇襲して動揺させ、本命に攻め込むのが日本軍のこのところの傾向ですね」「マリアナではなく、他の方面へ侵攻上陸する可能性はあるか。たとえばインド洋方面に向かう可能性は」

「充分にありえますが、その場合、日本本土は我々が空襲し放題です。放置していればいずれ国力がなくなり日本は壊滅するでしょう」

「だが日本軍は空襲被害を抑える為、大陸や満州などに工場を分散させ、継戦能力を確保しようとしていると聞くが」


 捕虜にした日本軍パイロットから、機体受領が何処で行われているか、何処の生産工場から部隊へ運んでくるのか聞き取り調査をしているため、確実な情報だった。

 実際、日本は戦前より生産力強化のために朝鮮半島や満州そして大陸に北山の主導で工場を建設していた。

 マリアナが陥落してからはB29の空襲を避けるため、工場の分散、疎開をより強く推進されていた。

 これは進出先での雇用を生み出し、大東亜共栄圏の発展に寄与していた。


「もしかしたらB29の空襲から逃れるため、日本軍は日本本土から逃げ出すかもしれないぞ」

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