混乱する米太平洋艦隊司令部

 一人の参謀がスプールアンスが唱えたマリアナ防衛に懸念を示した。


「かつて日本軍は、ソロモンの戦いの時、更にフィジー、サモアへ上陸を仕掛けると思わせ、我々を引き留めたことがあったぞ」


 日本軍は、と言うより佐久田は機動部隊だけの作戦でも陸上部隊を動かす事で上陸作戦のように偽装し、奇襲する手を好んで使っていた。

 上陸部隊を迎え撃つため、あえて空襲を甘受し、上陸に備えて防備を整えたが、空振りに終わり、追撃のタイミングを逸することが多く、地団駄を幾度も踏まされた。

 そのため、米軍は疑心暗鬼に、上陸作戦がフェイクでは無いかという考えに陥っていた。


「マリアナと見せかけて、ウォッゼに攻撃を仕掛けるのでは」

「いや、ニューギニア方面に再び進出するつもりだ。連中は南方資源の確保しに必死だ。資源の安定供給の為、防衛ラインの強化としてニューギニアを占領するのでは」

「違うと思うな。連中はボーキサイトが足りない。ボーキサイトが産出するオーストラリアを攻めようとしているんだ。航空機の増産のためにも、資源確保にオーストラリアへ攻め込むはずだ」

「英国を脱落させるため、インド洋へ向かうのでは? ボース率いるインド自由軍が進撃している。新たに日本軍が上陸すればインドが解放されるぞ」

「インド自由軍はともかく、インド洋からも日本軍は撤退中だ。それに、インド洋は遠すぎる。我々が行く必要は無い。戦力も限られている。インド洋は英軍に任せとけ」

「ハワイに再度奇襲を仕掛けるのかもしれないぞ。連中は時間稼ぎをしたいんだ。我々が攻撃に出てこれないようにハワイを更に徹底的に潰す。場合によっては上陸作戦を行いハワイ諸島を占領することもあり得る。奪回の為に我々の戦力を割く必要も出てくる。日本軍にとってはありがたい作戦だろう」

「いや今度は更に踏み込んで米本土かもしれないぞ。米本土を空襲し、サンディエゴやシアトルの海軍基地を破壊するのではないか」

「日本軍の拠点から遠すぎる。アメリカ本土攻撃の布石として、三年前のようにアリューシャンへ侵攻してくるのではないか。そして、ダッチハーバーを拠点にして我が本土へ攻撃を仕掛けるつもりでは。冬が終わり、航行可能な時期になりつつある。夏の間に本土を攻撃するかもしれない」


 情報が多すぎるため喧々諤々の議論になり、結論が出なかった。

 どの意見も、荒唐無稽な中身のない話ではなかった。

 以前から日本軍の通信傍受で明らかになった作戦と攻撃目標だった。

 しかし、暗号解読センターが破壊されたため、新たな日本軍の情報が入ってきておらず、次期作戦かどうかの決め手を欠いており、彼らはそれぞれ、かつての情報に振り回されて仕舞っていた。

 それも佐久田の策略だった。

 自分の思いついた作戦をとりあえず立案し、本当の作戦の様に見せかけたのだ。

 米太平洋艦隊司令部は見事に佐久田の術中にはまったのだ。

 そもそも日本軍の攻撃目標、米軍が進出した拠点はあまりに多く、太平洋は広い。

 世界一の国力を誇る米軍でも全てを守り通すことなど不可能だ。

 何処を守るか決めなければならない。

 他を見捨てでも。

 それが出来るのはこの場でただ一人だし、そのために居る。

 時間だけが過ぎて行き、会議の参加者は、自分の意見を述べた後、その人物に、自分たちの上官に視線を向けた。


「ニミッツ長官。ご決断を」


 結局ニミッツの判断に全てが委ねられることになった。

 促されたニミッツは重い口を開いた。


「ハワイを再度奇襲されるのは避けたい。ハワイの後方、本土側に第五艦隊を置く」

「ウォッゼに配置しないのですか?」


 ただ一人スプールアンスが反対するように尋ねる。


「その配置だと再度ハワイ空襲があったとき、第五艦隊の後方に日本軍が回り込み、部隊と本土が寸断される事になり今度こそ殲滅されてしまう。そのような事態を防ぎ、再建中のハワイの安全を最優先にする」

「……了解しました」


 内心では不満だったがスプールアンスは、頭を下げニミッツの命令を受領し退室した。

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