硫黄島の後始末
硫黄島攻略作戦でスプールアンスは独断で作戦中止を命じ撤収した。
三割近い損害を出していた上陸部隊は撤収し、日本軍の攻撃、船団突入と挟撃から彼らの命を救った。
しかしスプールアンスの行為は命令違反であり最悪、敵前逃亡で軍法会議もあり得た。
だがニミッツの取りなしと、日本艦隊から船団と海兵隊を助けた事実。
何より勝ち目が無くなった硫黄島から足抜けした事を評価され、引き続き第五艦隊司令長官として残っている。
ハルゼーがフィリピンでブルランを行い解任され、第三艦隊の新たな艦隊司令長官が決まっていない事も大きかった。
空母群数個と両用作戦群を率いるだけの器量を持つ司令官など米海軍でも少ないのだ。
タワーズ中将を昇進させる事も検討されていたが、キングとスプールアンス、そしてあのニミッツさえ嫌がった。
キングとは航空局長で争ったし、ニミッツも航海局長時代人事で何度もタワーズには煮え湯を飲まされていた。
スプールアンスも、かつて自分の参謀長を勝手に更迭された原因がタワーズの助言だと信じており険悪だった。
おまけにハワイ再奇襲のとき、タワーズが後方の航空部隊司令官としてハワイ方面で最高の将官だったため、日本軍に奇襲を受けた責任を追及されている状態だ。
以上の様な事情からタワーズに艦隊司令長官就任の目は無かった。
結局、スプールアンス以外に合衆国で、それも太平洋方面で艦隊司令長官を務められる人間がいない。
空母群の指揮官を昇格させる事も考えられたが、太平洋戦争が両用作戦、島々への上陸作戦である事を考えると、海兵隊や陸軍も纏められる視野の広い人間が必要だ。
しかも両用作戦経験者となると少ない。
いや、いない。
そして、上の命令を最悪の状況では無視できるだけの胆力があるのはスプールアンスしかいなかった。
以上の理由から、スプールアンスは、秘密裏に開かれた会議で留任が決定。
艦隊司令長官を続ける事になった。
表向きには査問会が開かれ、処罰された形式となったが、出来レースであり、スプールアンスの職務に変わりは無かった。
むしろ、硫黄島での的確な判断と他に指揮官がいないため地位は強化されている。
議会が召喚すると息巻いていたが、日本軍に新たな動きがあり対抗する為にはスプールアンスが必要と言ってうやむやにした。
だが、摺鉢山を制圧しながら陥落できなかったことに――硫黄島の詳しい情報、戦況を知らない米国民は激怒し、関係者の厳しい処罰を求めた。
さすがに海軍当局も国民の怒りを抑えることは出来ず処罰者が――生贄が必要だった。
その人身御供となったのは、マッド・スミスだった。
予想を上回る損害と作戦の不出来による責任を全て上陸作戦の現場責任者である彼に押しつけた。
スプールアンスは、今後の作戦に支障が出る、特に上陸作戦が上手くいかないとして代わりに庇おうとしたが、無理だった。
結局スミスは解任された。
スプールアンスは、彼の能力を評価し、ことある毎に復帰を願い出ていたが、スミスがその後、前線で作戦を指揮することは二度となかった。
そして、今回は日本軍の次期作戦に対する迎撃作戦であり、上陸作戦の可能性は低かった。
「マリアナに日本軍は来るでしょう」
「何故そう思う?」
「マリアナは日本にとって喉元に突きつけられたナイフです。B29発進基地であるかぎり、本土を空襲圏に収められている限り、空襲を阻止するために奪回を狙うでしょう」
スプールアンスは知将の名に恥じず、自分の知性で日本軍の行動を推察した。
本土を空襲されている日本軍なら、上陸できる能力があるのならB29発進基地であるマリアナを奪回するだろう。
そうスプールアンスは考えていた。
「実際、上陸部隊の編成が進んでいます。マリアナ奪回の為の兵力でしょう」
一部だが、日本軍の暗号解読と通信状況から上陸部隊が編制されていることは知らされていた。
ならば上陸作戦を最も効果的に、本土からそう遠くなく、作戦成功率が高く、成果が望める場所はマリアナしかなかった。
しかし、全員がスプールアンスと同じ考えではなかった。
「上陸作戦は偽装かもしれません」
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