戦争終結工作立案
「日本を終戦に導くとしたら何が必要でしょうか」
硫黄島守備隊の凱旋行進が続く中、ホテルの一室で佐久田は高木に尋ねた。
「講和への機運だな。少なくとも政府内、国策決定に関わる人間に講和を決意、決断させないとダメだ」
「講和しようと考える人間は政府内や軍部いませんか」
「いない」
「何故」
「海軍は日露戦争以来アメリカを仮想敵国として戦備を増強してきた。そんな事が出来ないのを分かっているのにな」
日露戦争後、日本は外敵からの脅威が無くなった。
それは明治維新の勝利であり、幕末以来外国に脅かされた日本の宿願だった。
しかし、同時に日本を脅かす存在が無くなり、その原動力となった陸海軍の存在意義が脅かされることになった。
仕方なく、陸軍はロシアの再戦に備えると言って増強した。
一方の海軍は、ロシア海軍が壊滅したため、恐れが無かった。
そのため、太平洋を挟んで日本との交戦があり得るアメリカを仮想敵国にして軍備の増強を行った。
「米軍に対抗する為の戦力を整える為に予算を獲得したのに、いざ戦争となった時、出来ませんなどと言えない。開戦はそうやって決まった。しかも開戦直後に大勝ちした。途中からまずくなったが、このところ立て続けに米軍に打撃を与えているからな。対等の講和どころか巻き返せると考えている人間が多い」
佐久田は黙り込んだ。
自分が日本の為に勝つ作戦を立案し成功させていたが結果、今日は勝てると人々に思い込ませる結果となってしまい、講和が遠のいてしまっている。
「講和に向かおうと考えている方はおりますか」
「海軍省内、特に井上閣下は戦争終結への道を考えておられる。私に戦争終結の道筋を考えるよ命令された」
「そんなことを私に言って、いいのですか」
「構わないよ。もし、私に何かあったら君が後を引き継ぐんだ」
「厄介ですね」
「断るかい」
「いいえ、戦争が終わるというのであればできる限りのことはします」
「ありがとう」
「政府の方で講和に向けた動きはありますか」
「ない。アメリカ側の交渉拒否で主戦論が台頭した。小磯首相も抑える事は出来ない。陸軍も本土爆撃阻止のためにマリアナを奪還しようと息巻いている」
「止めることはできませんか」
「無理だね。講和をアメリカ側に断られ打つ手がなく、首相も交戦を叫ばざるを得ない。支持母体である陸軍の協力を得るためにも抗戦を叫ばざるを得ない」
「米国側も問題です」
北山は話を続けた。
「米国は前大統領ルーズベルトの無条件降伏論を主軸に戦争を続けております。無条件降伏を受け入れない限り、止める事は無いでしょう」
「確かですか」
「チャーチルなど英国側が、ドイツとの停戦を望んでいた事がありますが米側は拒否しました」
北大西洋でグラーフ・ツェッペリンを主力とするドイツ海軍が暴れ回り、英国向けの輸送船団をことごとく沈めていた。
しかも日本軍がインド洋で暴れていたため輸入が止まることになる。
英国は窮地に立たされ、枢軸国との講和も視野に入れた停戦交渉を行った。
だが、アメリカと相談する段階になると拒絶された。
カサブランカで無条件降伏論を展開したルーズベルト大統領が公約違反になると言って拒否したのだ。
勿論、英国をアメリカの支援が無ければ生きることの出来ない経済的な属国にする計画もあり、英国には苦しんで貰う事を選択したのだ。
「アメリカ側に講和に向けた動きがないのは確かだ。そこが難点だが、それ以前に日本にも講和に向けた意志がない」
講和は交戦国双方の合意が必要だ。
片方が望んでももう片方が納得しなければ、成立しない。
双方を纏める必要がある。
米国側も問題だが、佐久田達の属する日本政府が主戦論に陥っているのでは、話しにならなかった。
「いっそのこと首相を暗殺しますか」
「やめておけ東條の時、暗殺を考えたが余計ひどい結果になるだろう」
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