ハワイ沖海戦2

「編隊を崩すな! 全機付いてこい!」


 南山は指揮官機とはぐれると、周りの雷撃機を集めて敵空母に向かって突進を始めた。

 引き返したところで、餌食になるし味方の空母が更に攻撃を受ける可能性がある。

 ならば、刺し違えてでも魚雷を命中させ、攻撃不能にしてやるしかない。


「出来るだけ低空を飛べ!」


 付いてくる味方に海面近くを這うように飛ぶよう命じる。

 上空から攻撃してくる敵機は、降下してくるが海面すれすれだと攻撃後海面に激突する危険があり攻撃しにくい。

 少しでも生き残るための知恵だ。


「後方より敵機!」

「勇敢だな」


 だが、米軍も母艦を守ろうと必死だった。

 上空から、ブローニングの直線的な弾道を生かして南山の針路上に銃撃を浴びせる。


「しかも上手い! 次は当てに来る」


 正確に南の機体の進路上に未来位置めがけて撃ってきた。

 ただ早めに離脱しようとして機首を早く上げすぎたのか、着弾が前に行きすぎた。

 次は修正して当ててくる、南は直感した。


「後方銃座! 弾幕を張れ!」

「はい!」


 復座機には最も攻撃を受けやすい後方上空を撃つ機関銃が装備されており、流星も例外ではなかった。

 絶好の射線に付かせまいと弾幕を張る。

 複数の機体で行えば効果は大きい。

 だが、それでも米軍機は執拗に食いついてきて発砲する。


「良い腕だ」


 右に上がる水柱を見て南山は、敵のパイロットを褒める。

 南山は弾幕を張るだけで対応していたわけではなかった。

 機体を横滑りさせ、機首の方向を少し左に向けながら飛んでいた。

 これで、移動方向を誤認させ回避したのだ。

 米軍は再度攻撃してこようと後ろに付くが、突如起こった爆発の前に退避していった。


「見えたぞ! 敵機動部隊だ!」


 日本機と誤認した護衛艦艇の対空砲火が、米軍機の前で炸裂したのだ。

 味方に撃ち殺されるのは堪らないと離脱していく。

 一方南山達は猛烈な米軍の砲火の中を突進していく。


「さあ! 突入するぞ!」


 南山は低空を飛ぶのを止めない。

 高度を上げれば艦艇からの砲火の餌食だ。

 駆逐艦や巡洋艦から五インチ砲が盛んに火を噴くが、前の方で爆発する。

 VT信管という電波を放ち機体が近くを横切っただけで電波が反射、戻ってきた電波を受けて起爆する新型の信管だ。

 だが、海面近くの場合、海面からの反射も拾ってしまい自爆して仕舞う。

 発砲し安全装置が外れた途端に爆発しているのだ。


「輪形陣の中に入る」


 五インチ砲の射程の内側に入るとボフォース砲が迫ってくる。

 四〇〇〇メートルの射程を保つ大口径機関砲の射撃は猛烈で、敵護衛艦から離れていても危うい。

 だが南山は熟練にふさわしい技量と胆力で機体を操り、弾を避け、空母に接近していく。


「見えた! エセックス級空母だ!」


 何度も魚雷を叩き込んできたクラスであり見間違える事はなかった。

 周りにも見慣れない空母が二隻いるが小さい。

 狙いをエセックス級に絞り狙いを定める。


「回頭している。回り込むぞ」


 南山達に気が付いて回避するべく右旋回を始める。

 だが、南山も空母の未来位置に向かって迂回し、狙いを定める。


「ドンピシャだ! 撃っ!」


 回り込み至近距離に近付くとすかさず魚雷を投下した。


「戦果を確認しろ!」


 言った直後に、後方で爆発が起きた。

 船体の反対側で水柱が上がる。


「命中です!」


 後席が興奮気味に言う。


「他の味方はどうだ!」

「はぐれた模様です。あっ! 他の空母にも水柱が二本上がっています! 雷撃成功です」


 実際ははぐれた味方が手近なサイパン級軽空母を雷撃して魚雷が一本命中。さらに偶然上空を飛んでいた爆装流星が同じ目標を狙ったが外れ爆弾が至近弾となり水柱を上げただけだった。

 混乱する戦場では、このような混乱は仕方なかった。


「凄い! もう一隻の空母も火柱が上がっています!」


 急降下爆撃に成功した一機が命中させたものだった。


「これで全ての米軍の空母に損害を与えたな」


 多少は空襲を防げたと思う。

 だが、米軍の応急修理能力は凄い。

 この程度の損害などすぐに復旧してしまうだろう。


「うおっと!」


 輪形陣を脱出すると敵機が襲い掛かってきた。

 母艦をやられて頭にきているようだ。


「離脱するぞ! 母艦に帰るまで油断するな!」


 このあと南山は敵機を回避しながらも無事に離脱し母艦にたどり着いた。

 

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