ハワイ沖海戦1
「まさか空母を攻撃出来るとはな」
流星に乗り込んだ南山は、苦笑しながら言った。
開戦劈頭のハワイ作戦で雷撃隊の一員として参加して戦艦に魚雷を一本命中させて以来、多くの海戦で敵空母に魚雷を命中させてきた。
今回はハワイ空襲、在泊艦艇ではなく海軍施設への攻撃であり、雷撃を専門とする南山に出番はないと思っていた。
万が一、敵の機動部隊が発見された時に備えて待機を命じられていたが、ハワイ空襲へ第三次攻撃以降に回されると考えていた。
敵艦隊の現れる攻撃できるかどうかは五分だと考えていた。
だが、運が良かった。
機動部隊が発見され、南山達は直ちに雷装転換された流星に乗り込み攻撃が命じられた。
勇躍して飛んでいったのは言うまでもない。
発進したのが、第一部隊と第二部隊の六隻から二〇〇機程度、しかも攻撃機が少ない高尾が不安材料だが、敵空母三隻、内二隻が小型なら十分に相手に出来ると考えていた。
しかし、空母からの報告に緊張する。
「来襲した敵の攻撃隊は一五〇機を超えるそうです」
味方の無線を聞いていた後ろの電信員が報告する。
空母の艦載機は滑走距離を確保する関係から搭載機の半数しか飛び立てない。
カタパルトを装備した米軍でも、カタパルトの能力上、半数程度しか発艦させられないはず。
つまり南山達の前には、最大で敵空母に残った一五〇機の米軍機が待ち構えることになる。
「厳しいな」
戦闘機隊が多いとはいえ、十分な数ではない。
攻撃隊が成果を上げられるか微妙な数字だ。
「彩雲より通報! 敵電波を探知! 指揮官機より低空へ下がるよう命令です」
「降下する」
いつものように電子装備を積んだ彩雲が敵の電波を探知して知らせてくれた。
攻撃隊は敵レーダーを回避する為降下する。
いつもと同じ行動だ。
だが、何時までも通用するのか。
南が不安に思っていると、左翼側の編隊が攻撃を受けた。
「敵機来襲!」
「畜生! 何で探知された!」
日本の攻撃隊が不審に思ったのも仕方なかった。
ただ米軍は濃密な迎撃管制を行う為の実験や演習をこの空母群で行っていた。
二段ピケットもその一つで通常は後方の駆逐艦が広域を捜索。
敵機を発見したら、前方に配置された別の駆逐艦がレーダーを作動させ、低空を進撃してきた攻撃隊を捕捉するという作戦だった。
演習で効果を確かめるはずだったが、図らずも起きてしまった実戦で有効性が証明された。結果、南山隊攻撃隊は米軍機の襲撃を受ける事となった。
「クソッ 数が多い!」
周囲を乱舞する米軍機に攻撃隊は、悪態を吐く。
史上稀に見る敗北を喫したフィリピン沖海戦は米軍に大きな衝撃を与えた。
同時に自分達の戦術に問題がないか再考するきっかけともなった。
特に衝撃的だったのが、カミカゼ、体当たり攻撃だった。
回避運動しても人という当時最優秀の誘導装置が取り付けられた飛行機が飛び込んでくるため回避は難しいとされた。
当初こそ苦し紛れ、ごく一部のパイロットが被弾して自爆したと思われていた。
だが、志願制の正規編成された部隊と知ると米軍は困惑と共に恐怖を抱いた。
一時撤退したとはいえ日本本土侵攻をスケジュールに入れているアメリカの戦争プランは変更されておらず、本土に近付けば再び体当たりの脅威にさらされる。
非人道的であってもカミカゼは米軍にとって脅威だ。
命中率が高く、可燃性の残存燃料が広がれば大火災は免れず、防御力とダメコンに優れた米海軍艦艇でも大損害となる。
米軍はカミカゼ対策に特別チームを編成した。
様々なプランが計画されシミュレーション――都合の良い数字ではなく戦闘報告を元に算出された厳密な数字を使って行われた。
結論としては、対空火器の増大と防空戦闘機の増大だった。
具体策として空母飛行隊の編成を戦闘機重視全体の三分の二以上に高める事となる。
攻撃機の減少、空襲の効果が減少すると反対されたが、二〇〇〇馬力級のヘルキャットならば爆装も可能であり、必要なら爆装あるいはロケット弾を装備して空爆に参加できるため、問題なしとされ戦闘機が増加した。
さらに、先述したように艦載機を限界まで増大させる実験をこの空母群では行っていたため、全ての空母で搭載機が通常より五割増しとなっていた。
そして残った艦載機は全て空母の護衛に回された。魚雷装備可能な攻撃機が少ないため全て攻撃隊に回され、戦闘機しか残っていないという理由もあった。
かくして日本の攻撃隊は一五〇機もの米戦闘機の迎撃を受けることとなる。
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