ハワイ沖海戦3
「敵空母一に魚雷命中、もう一隻の空母に魚雷二本命中、更に一隻に爆弾命中飛行甲板大破」
「大戦果です!」
集計されたばかりの戦果を聞いて信濃の艦橋は湧き上がった。
「少ないな」
だが山口は満足しなかった。
「仕方ありません。攻撃隊の数が少なかった上、敵の戦闘機が予想以上に上空に上がっていました」
敵の攻撃機が多かったことから佐久田は予想していたが、米軍は搭載数を増やしていた。
攻撃隊の機数が多いなら護衛戦闘機も多い。
載せている搭載機を全て出してきた可能性もあったが、最悪の事態を想定する癖が付いているため、決して油断してしない。
「発進したのが第一部隊と第二部隊の即席でした。決して満足な機数を出せた訳ではありません」
「それでも少ないな」
佐久田の意見には同意だが、山口は不満だった。
もし開戦時の第一航空艦隊レベルの腕なら、全艦撃沈していた。
だが、長引く戦争で損耗した艦載機部隊、規模拡大と共に新人が多く入ってくる環境では、全体のレベルが上がるのに時間が掛かりすぎる。
しかも燃料事情が悪くなり、訓練飛行の時間を、飛ばすための燃料を確保するのが難しくなっている。
むしろ飛ばせるのが不思議なくらいだ。
陸上航空部隊の拡大が進められた理由も、発着艦に技量が必要な空母部隊より搭乗員の育成が簡単だからだ。
しかも損害が大きい。
これほどの規模の空母機動部隊が信濃型三隻、大鳳型二隻、翔鶴型とその改良型が四隻、更に加賀と雲龍型五隻が存在していること自体が日本にとって奇跡なのだ。
むしろ飛行機を落としても空母を沈めても、新たに、しかも十分な訓練を施されたパイロットと護衛艦をセットで送り込んでくるアメリカの国力が異常なのだ。
こんな相手と長期戦などどだい無理だ。
今後就役するのは、生産能力と整備に使えるドックの数から雲龍型のみ。航空機生産能力もパイロットの育成も限られているので母艦戦力は増えない。
だがそれでも戦わなければならない。
何とかやって来れたのは佐久田が損害を最小限に抑え、敵の弱点を突いたからだ。
「次で沈められますよ」
「沈めるまで攻撃を続ける気か」
「では取り逃がしますか」
「絶対にダメだ」
山口はむきになって言った。
「見敵必殺。敵空母は必ず沈めなければならない」
ミッドウェー海戦では、敵空母を大破に追い込みながら取り逃がし、その後のソロモンで苦しめられた経験があった。
確実に仕留められる時に仕留める。
これが山口の信条だった。
それに米軍の戦力は圧倒的であり、滅多に隙を見せない。ここは米軍が見せた滅多にない弱点だ。
ここを突かなければ、今後好機は二度と巡ってこないだろう。
「では、攻撃を続行します」
「ハワイ攻撃は良いのか?」
「第一波と第二波で予定通り、在ハワイ航空戦力は、ほぼ破壊出来ました。反撃の恐れはありません。念のために偵察機を送っていますが、滑走路の破壊状況は十分でしょう。機動部隊を撃滅した後、残存航空機で攻撃隊を編成し日没までに空襲を行う事は十分可能です」
現在も艦隊はオアフ島に向かって進撃している。
距離が短くなった分、飛行時間が短くなり反復攻撃が何度も出来る。
「それに攻撃の本番は明日です」
「そうだな」
山口はにやりと笑った。
開戦時のハワイ作戦とは違い、今回は二日間にわたり何度も攻撃を行う。
余裕があれば、更に一日追加して徹底的に攻撃しハワイの施設を壊滅させる予定だ。
二度と真珠湾が使い物にならないくらい徹底的な攻撃を行う事を佐久田も山口も目論んでいた。
「攻撃隊は準備出来次第、発艦。米軍機動部隊を壊滅させろ。壊滅するまで何度も攻撃する」
「了解」
「終わったら、ハワイへの再攻撃を行え、搭乗割りの準備も始めろ。第二艦隊にも分離準備命令だ」
「はい」
すぐに第三、第四部隊から残った艦載機部隊が出撃していった。
一五〇機の戦闘機とレーダーピケット艦による誘導を行い、危機をしのいだ米軍機動部隊だったが、第一次攻撃により戦闘機は数を減らた。
弾薬も燃料もなく降り立ったのは傷ついた母艦であり、低下した運用能力では最小限の補給しか出来ない。
そんな状況では日本の攻撃機の前には無力だった。
残った戦闘機が飛び立ち、夕刊に戦ったが二〇〇機近い攻撃隊の前には無力で日本軍攻撃隊は易々と突破。
空母群はトドメを刺され、全艦沈没した。
用意していた第三次攻撃隊は、目標変更が伝えられオアフ島への再攻撃が実施された。雷装の機体にはオアフ島南東、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島に囲まれたラハイナ泊地にいる輸送船団攻撃を命じられた。
明け方の空襲を受け、退避命令が出ていたが、数が多く出港には時間が掛かっていた。
そこへ日本軍の攻撃隊が来襲し、甚大な被害を受けることとなった。
その後も日本軍の攻撃は夕方頃まで続き、米軍の復旧作業を妨害した。
米軍はオアフ島の航空戦力の回復は出来ず日本機動部隊への反撃は出来なかった。
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