翔鶴被弾
それは、日本艦隊の一瞬の不意を突いた出来事だった。
米雷撃機への対応に日本艦隊の意識が向いたため上空への警戒が誰もが疎かになっていた。
雲の中に隠れ、エコーにより電探からの探知も回避したSB2C-3ヘルダイバーが、悠々と第三部隊の上空へ現れ、眼下の雲の隙間から翔鶴を発見し狙いを定めたのだ。
初期型こそ急降下爆撃機のくせに急降下出来ない、折りたたみ機構を付けたため強度が低下し、構造強化したら重量が嵩み、更に強度が必要になる悪循環。
エレベーターに二機搭載出来るよう全長を短縮したため、操縦性能が低下。重量が増大したため更に悪化し操縦性は更に悪くなった。
だが3型となってからは、欠陥が改修され急降下爆撃可能となっていたが、より高速を出せる緩降下のほうが威力を出せるため急降下を行う事はなくなってしまった。
命中率も高く、投下した三発の爆弾が翔鶴の飛行甲板に落ちていった。
一発は艦尾に命中。もう一発は中央部、更に一発が前部に命中した。
特に前部に命中した一発は被害甚大だった。
着艦作業中で艦載機が密集していた事もあり、大半の機体を破壊してしまった。
破壊された機体から漏れ出た燃料に引火し、甲板は大炎上する。
「取り舵一杯! 全速後進!」
翔鶴艦長の適切な命令により風下へ向かって後進を始める。
火の勢いを一番強い前部に局限し、被害を小さくするための行動だ。
この処置は、翔鶴を救った。
甲板に集まった消火部隊は風上となった中央部からホースを伸ばし火災を消していく。
ミッドウェー海戦の教訓により飛行甲板に泡沫消火装置が設置され、迅速に作動し火災の拡大を抑えた事も消火を早めた。
多くの艦載機を事前に投棄したこともあり、翔鶴は大破発着艦不能になったものの、無事に航行していた。
また、翔鶴に攻撃隊の半数が集中したため、瑞鶴など他の空母は無事だった。
しかし、残りの半数は別の部隊へ向かった。
「敵機! 我ら第五部隊へ接近します!」
源田達が乗る雲龍を旗艦とするる第五部隊へ敵機が接近していた。
戦闘機隊を発艦させるため、全速で風上へ向かっていた事もあり、機動部隊の中で離れていたことも災いした。
「回避行動!」
源田の命令で直ちに第五部隊の回避行動が始まった。
だが、最後まで戦闘機を発艦させていたため、回避が遅れた。
「阿蘇に敵機が集中しています!」
「阿蘇を守れ! 対空火器全力稼働!」
源田は防空射撃を命じた。
敵の攻撃から貴重な空母を守らなければ。
周辺に配置した秋月型防空駆逐艦、綾瀬型防空巡洋艦の一〇サンチ高角砲が火山の噴火を思わせる程、激しい砲火を上空のヘルダイバーへ浴びせる。
だが、他の部隊に、搭載機が多く、より価値の高い大型空母が所属する部隊に防空艦を集中させたために第五部隊の防空艦は少なかった。
すり抜けたヘルダイバーが最後まで艦載機を発艦させていたため遅れていた阿蘇に攻撃を集中させた。
十数機のヘルダイバーが襲いかかり爆弾を投下。阿蘇の周囲に無数の水柱を上げさせ四発の爆弾が命中した。
戦時急造に指定された小さめの中型空母で艦載機が少ないため、防空専門艦として運用されている事もあり、阿蘇が載せていたのは戦闘機と索敵の彩雲、対潜哨戒の攻撃機のみだ。
その大半が索敵と防空のために発艦しており格納庫は空だった。
お陰で飛行甲板が使用不能となった他に被害はなく、無事に済みそうだった。
だが、その油断が命取りになった。
「雷撃機接近!」
上空へ意識が集中したため、海面すれすれを通ってきたアヴェンジャー雷撃機に気がつくのが遅れた。
気がついた時には既にアヴェンジャーは、阿蘇の近くにやって来ていた。
阿蘇が突出していたこともありアヴェンジャーにも同時に狙われてしまった。
爆撃機の集中攻撃を回避するために面舵を続けたいたこともあり、動きが単調になったこともあって、六機の雷撃機が射程に入った。
同時に投下された魚雷の半数は回避出来たが、残り三本が命中した。
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