米軍攻撃隊の狙い
「敵攻撃隊! 北西方面へ向かっています!」
「第一部隊の後方へ回り込もうとしているのか」
戦闘指揮所で報告を受けて志賀少佐は呟いた。
一番近い敵を攻撃するのが戦いのセオリーだ。
特に燃料に制限のある航空機では帰りの燃料を考慮しないと墜落の危険がある。
敵攻撃隊を引き寄せるために第一部隊と第二部隊を前方へ進出させたのは、燃料を気にした敵編隊が早く攻撃したいという心理を突くためのものだった。
だが、敵攻撃隊は第一部隊の後方へ向かっている。
「いや、第三、第四部隊を攻撃するつもりだ」
「まさか」
源田の言葉に志賀少佐は驚いた。
「残存燃料が厳しくなります」
「爆弾魚雷を無駄撃ちしたくないのだろう。我が装甲空母に爆弾魚雷を落としても意味がないと判断しているのだ」
大和型戦艦を改造して建造した信濃型装甲空母。日本初の装甲空母である大鳳型。
いずれも日本機動部隊の要だ。
主力である第一部隊と第二部隊に配属されており、これまで米軍の攻撃を吸収し耐えてきた堅い船だ。
米軍が使う一〇〇〇ポンド爆弾に耐えられるだけの装甲板を飛行甲板に張り巡らせており、何発食らっても平気だ。
これまでの戦場でも爆弾を受けても艦載機が破壊され炎上するだけで船体への被害は軽微だった。
だからこそ、囮として、敵攻撃隊の攻撃を吸収するために前方へ出てきたのだ。
「だが米軍も馬鹿ではない。戦果が挙がらないと考え、撃破しやすい通常型空母を狙ってきたのだ」
本来なら全ての空母を装甲空母にしたいが予算のない日本には無理だ。
むしろ、一五隻の空母を揃えられただけでも奇跡だ。
その大半が戦時急造艦で飛行甲板に爆弾一発を食らえば大破する装甲がない通常空母だとしてもだ。
実際喪失した艦は全て通常型空母。
現在のところ装甲空母は失われていない。
空襲に強いことは敵味方共に理解しているはずだ。
戦果を確実に得ようと、例え燃料切れで不時着する事になっても後方の通常型を沈めようと考えても不思議ではない。
「直ちに迎撃に向かわせろ!」
「はいっ!」
志賀少佐はすぐに対応しようとするが、難しかった。
護衛戦闘機の殆どは来襲すると予想した第一部隊の周辺にいる。
第三、第四部隊の周りにいるのは少数だ。
しかも、攻撃隊の準備の為に甲板は艦載機で溢れている。
このままではミッドウェー海戦の二の舞だ。
「第三、第四部隊には艦載機を直ちに発艦させるよう命令。無理なら艦載機を放棄させろ」
「はいっ」
攻撃力が低下するが被弾して発艦不能になれば同じ事。
火災で消火不能になり大破、雷撃処分となって喪失より遙かにマシだ。
それでも貴重な戦力を失うことに変わりはなく、苦渋の決断だった。
源田の予想は正しかった。
米軍はこれまでの攻撃から日本の装甲空母への攻撃は、成功したとしても装甲甲板を貫けず、損害を与えられない、攻撃隊の被害に対して割に合わないとされた。
勿論艦載機を破壊する効果はあるが、撃沈に結びつかないと結論づけられた。
ならば同じ成功率と損害予想ならより防御力の低い通常型空母、特に戦時急造艦を狙うべきという結論に至った。
空母群指揮官が攻撃隊に出した指示もその方針に従ったものであり、偵察機も装甲空母の他、通常空母を探し報告、誘導していた。攻撃隊も通常型空母を狙って、進軍していた。
そして日本軍の通常型空母を見つけ出すと、攻撃態勢に入った。
「攻撃させるな!」
米攻撃隊の意図に気がついた防空部隊は直ちに反転して援護に向かった。
だが、米軍も一〇〇機以上の戦闘機でやって来たため、思うように攻撃出来ない。
三四三空は当初より戦闘機を狙っていたし、攻撃機を狙った零戦改の部隊は練度が低くて撃墜、阻止を行うには難しい。
数を上げていたが大半が敵機が向かうと予想した第一部隊周辺に集めていたため、攻撃隊の多くが到達してしまった。
「敵雷撃機多数接近!」
「防空射撃始め! 回避行動自由!」
すぐさま、第三部隊と第四部隊は空母を守る為に、防空戦闘を開始した。
対空火器を撃ち、敵機を寄せ付けないよう弾幕を張る。
それでもアヴァンジャーは海面ギリギリを飛行して対空砲火をすり抜け、輪型陣の中へ入り空母へ接近する。
爆弾庫を開き、魚雷を投下する。
「回避!」
森下航海参謀および松田少将の猛演習により回避技術を持ち得た日本艦隊にとって空襲からの回避行動は簡単だった。
艦隊は空母を中心に大きく舵を切り、魚雷を回避した。
離れていく雷跡を見て全員が安堵したが、切り裂くような悲鳴が、報告が響いた。
「敵機直上! 急降下!」
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