戦闘七〇一飛行隊維新隊 鴛淵孝大尉

「って、何か重いぞ俺の機体は」


 機体を動かしながら、何時もより重たい機体の反応に菅野はいぶかしんだ。

 下に重しが付いているような感じた。

 お陰で降下の時は早かったが、旋回するとき重くて仕方がない。


「隊長! 隊長の機に増槽がついたままです!」


 杉田が無線機で叫んだ。

 紫電改二には航続距離を伸ばすために増槽が取り付けられている。

 落下式で戦闘前に落とすのが基本だ。

 だが、機械の故障か、落下スイッチを押しても外れずついたままだった。


「畜生め」


 菅野は機体を揺らし外そうとするが、急激な機動でも外れなかった増槽が外れるわけがなかった。


「隊長! 危険です! 離脱してください!」


 杉田が叫ぶ。

 増槽がついたままだと機動性が落ちて動きが鈍くなってしまい敵の良い的だ。


「……ふむ、なら増槽がなくなれば良いんだろう」


 菅野は敵機に近づいていく。

 敵機は逃げるが、菅野は離れず追いかけていく。増槽がついていて機動性が落ちているのに追いつくとは菅野の操縦技術が卓越していた証拠だった。

 だが機銃は撃たない。

 射程に入っても更に接近して、菅野の機体は敵機に接触しそうになる。


「隊長!」

「どりゃっ!」


 接触すると思った杉田が叫んだ。

 だが、神尾は巧みに機体を操り敵機の垂直尾翼に増槽をぶち当てて破壊した。

 垂直尾翼を失った敵機はバランスを崩し、錐揉みを起こしながら墜落していく。

 一方の菅野の機体は無傷だ。しかも、ぶつかった衝撃で増槽が外れた。


「どんなもんだ! 杉田!」

「無茶苦茶すね」


 隊長の無鉄砲さには杉田も苦笑するしかない。


「さあて、余計な時間を食っちまった! 遅れを取り戻すぞ!」


 身軽になった菅野の機体は、先ほど以上の機動力を発揮し、敵機を追いかけ始めた。


「まったく、あの人は凄まじい」


 杉田も菅野を追いかけるべく追随し、新撰組の各機も追いかけていく。

 三倍の敵を相手に新撰組は一歩も退かなかった。




「菅野の奴、無茶をしやがって」


戦闘の様子を見ていた鴛淵孝大尉は苦笑した。

 最年長、先任飛行隊長としてというより兄がやんちゃな弟を見る様な目で今の空戦模様を見ていた。

 血気盛んな性格の菅野らしく危なっかしい動きにハラハラすると共に、敵機に食いつく姿には頼もしく思う。


「林も上手く戦闘に突入したな」


 先発の敵制空隊が、攻撃隊に攻撃されたと聞いて引き返そうと反転した瞬間を林は捉え、攻撃した。

 旋回中のため、編隊が乱れた敵機は、林達天誅組のロケット弾攻撃を受けてバラバラになった。そこへ林達が突入し各個撃破されていった。


「拙いな。連中は立て直しを始めている」


 だが、数に勝る米軍機は逃れて戦闘機が編隊を組み直し反撃しようとしている。

 一部は菅野達や林達に向かっているが、一部は攻撃機を襲撃している味方機への攻撃を行おうとしている。


「維新組全機! 零戦改を襲撃しようとする敵機を迎撃する! 我に続け!」


 鴛淵は、味方戦闘機の援護に入った。

 自分たちと違って訓練時間が短く腕が良くない。

 彼らが戦える様に援護することにした。

 だが、コースは巧妙だった。

 まっすぐに向かわず、菅野達新撰組の背後に向かう。


「まずは、菅野達の援護だ!」


 菅野達を追いかけ始めた米軍機に向かってロケット弾攻撃を行い蹴散らす。

 そのまま、突き抜けて急降下し、敵攻撃隊を援護する米軍戦闘機の背後に食らいつく。

上空の異変に気がついた米軍機は狙われていると知り、急降下して逃れようとする。

 

「逃がすか!」


 鴛淵は更に速度を増して米軍機を追いかける。

 急降下速度が向上した零戦改でも制限はある。しかし紫電改は更に降下速度が向上している。艦載型になった紫電改二も同じであり、米軍機に追いつくくらいは十分な速度を出せた。


「貰った!」


 素早く背後に付いた鴛淵は狙いを定め、引き金を引く。

 照準器の中でグラマンがバラバラになり、海に落ちていった。


「ふむ、少しばかり、高度を落としすぎたか」


 鴛淵は機体を引き上げる。

 強力な誉れエンジンを搭載した紫電改は上昇力も良く、高度もすぐに回復する。

 新たな獲物を探して鴛淵は周囲を探すと同時に異変に気がついた。

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