自動空戦フラップ
米軍の編隊はかなり無理をして搭載機の半数近い一五〇機を発艦させ攻撃隊を編制した。
特に戦闘機は多く一〇〇機以上が配置され、制空隊と護衛隊に分かれて攻撃隊を援護している。
菅野達が第二編隊と呼んだ護衛隊には五〇機以上の戦闘機がいた。
そこへ猛然と菅野の新撰組戦闘三〇一飛行隊は襲いかかる。
圧倒的劣勢の一六機だったが、米軍機は寄せ集めの上に、編隊の中央を攻撃され乱されており有効な反撃が出来なかった。
菅野は散らばった敵機を狙い、左旋回して急接近する。
「どりゃっ!」
至近距離まで近付き、トリガーを引く。
四門の二〇ミリ機銃が火を噴き、グラマンをバラバラにした。
「やっぱ良いな二十ミリ長銃身四門は」
零戦改にも二〇ミリが四門付いていたが、軽量化の為に銃身が短かった。
だが、紫電改はエンジン出力の向上により銃身を長くし、寄り高初速の弾丸を放つことが出来た。
一機を血祭りにした菅野は、新たな目標を見つけ、機体を捻る。
「よしっ、全員付いてきているな!」
後ろを振り返りながら部下達が付いてきているのを確認する。
急激な機動にも関わらず、落伍した機体はいない。
「流石自動空戦フラップだ」
日本海軍が開発に成功した、自動空戦フラップによる機動力の賜物だった。
迎撃機として開発された紫電は、速度性能を重視したため、どうしても機体重量があり、翼面荷重、機体の重量を支える翼面の面積が高い。
これが高いと高速機としては良いのだが、旋回性能が悪くなる。
速力を向上させたのは良かったが、伝統的に旋回戦を重視する日本海軍にとって良いとは思えなかった。
特に敵機相手にドッグファイトを好む熟練戦闘機パイロット達は不満だった。
そこで、フラップを使った機動力の向上を図った。
フラップは離着陸時に揚力を上げるために展開する翼だ。
これを旋回中に展開して揚力、上向きの力を発生させて旋回性能をアップさせようというのだ。
だが、フラップは飛行中には収容されている。なぜなら揚力が増大する代わりに抵抗が増大し機体速度が落ちてしまう。
下手にフラップを使えば旋回半径は短くなり距離は短くなったが、速度がそれ以上に落ちて結局とろくなった、敵機の餌食になりかねない。
かといってフラップの展開を小さくしたら、旋回半径は大きくなる。
最適な展開角度を瞬時に、それも激しいGがかかり血液が下半身に集まり脳が酸素不足に陥って六割頭、思考力が通常の六割に満たない戦闘中に行うなど熟練者でも不可能。
飛んでから日の浅い若手パイロットなど特に無理だ。
そこで、最適なフラップ角を自動で算出し制御する自動空戦フラップを海軍は開発した。
水銀柱がGを感知し、スピード計と合わせて自動的にフラップを出すのだ。
初期こそ故障が多かったが、実戦を繰り返す内に精度が上がり、完璧に作動していた。
おかげで日の浅いパイロット達でも菅野達に付いていくことが出来る。
「へばらないようしごいた甲斐があったな」
だが、熟練者並みの機動を、強烈なGが襲い掛かる機動をパイロットは熟練、若年を問わず耐えなければならない。
その意味で、紫電改は扱いづらい機体だった。
だからこそ、菅野たち飛行隊長達は訓練の際、体力作り、強烈なGに対抗出来る肉体を作る事を目標にして鍛えていた。
飛行訓練がないときはひたすら走り込みと海軍体操で身体を動かし、筋力を付けさせた。
航行中の空母の中でも毎日、筋トレを行い、鈍らせないようにしてきた。
それが、今発揮されていた。
「攻撃機への迎撃は零戦改に任せて俺たちは敵の戦闘機を仕留めるぞ!」
菅野率いる新撰組、いや剣部隊は制空権奪回の為に、各地から熟練を集めて編成された精鋭部隊だ。
敵戦闘機を掃討するために生まれたのだ。
「アメ公を空から排除しろ!」
菅野は無線器で叫びながら、敵編隊を追いかけた。
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