ディアス軍曹の反撃

「砲撃開始!」


 ディアスは砲撃を命じた。

 撃破出来ないのは分かっている。

 だが、日本戦車を引きずり出すためにも自分達へ引きつけなければならない。


「ドライバー! 後退しろ! 右後ろへジグザグに進め! ガンナー! 日本戦車の手前に榴弾! 撃ち込め!」

『手前にですか?』

「止まって狙う余裕はない!」


 M4の手法はスタビライザー付きの安定装置はあるし、照準器も砲側へ固定したお陰で行進間射撃は一応可能だ。

 だが垂直方向のみの能力で水平方向は、手動調整。

 しかも硫黄島の柔らかい砂地と岩石が作る凸凹がシャーマンに激しい振動を与える状況では、行進間射撃は難しい。

 まして敵戦車に有効弾を与えられない。


「当たっても連中の装甲は貫けない! なら手前に命中させ土煙で煙幕にする!」

『ラジャー!』


 乗員はディアスの指示に従い行動した。ディアスの目論見は当たり、日本戦車はディアスを狙って砲撃し、近づいてくる。

 頻繁な方向転換のおかげで、命中弾はなく、日本戦車を予定通りの位置まで引き寄せる事に成功した。


「今だ! 歩兵部隊! 撃て!」


 隠れていた歩兵がバズーカを構え発射した。

 至近距離にいた日本の戦車のキャタピラに命中し、外すことに成功した。


「よし! やったぞ! 各車! 影に隠れて日本戦車を攻撃しろ! 歩兵は陣地転換!」


 言った瞬間、日本戦車が歩兵のいる場所を砲撃した。


「歩兵! 大丈夫か!」

『伍長が戦死しました!』

「畜生!」


 先ほど知り合ったばかりで名前も覚えていない。なのに死んでしまって悔しい。


「よし! 今からお前が指揮官だ! 仲間を引き連れて移動しろ!」

『ですが自分は一等兵で』

「そこにいたら全員挽きつぶされるぞ! とっとと仲間を連れて後ろに下がれ! そしてバズーカで日本軍を攻撃しろ!」

『バスーカは破壊されました』

「……筒の先端だけでも以て適当な位置に日本戦車に見えるようにおけ! 囮にする! 囮にしたらすぐに逃げろ! そして物陰から日本戦車を狙え!」

『小銃では装甲を貫通できません』


 冷静な奴だ、とディアスは思った。普通なら半狂乱となり、貫けるはずのない小銃を撃ち続ける。そして敵戦車の反撃を受けて死ぬしかない。だが、この一等兵は自分の出来る事と出来る事を理解している。


「構わない。敵の戦車の注意を引きつけてくれ。できる限りで良い。撃ったらすぐに陣地転換して撃ち続けろ。それだけでも嫌なものなんだ。引きつけている間に俺たちが右から回り込んで日本戦車を攻撃する」

『了解しました!』


 ディアスは後退させると、生き残った戦車の内二両を選び、自分と共に迂回させる。

 その間も日本軍戦車の砲撃が激しく行われていた。

 しかし砲撃はまばらでバラバラに撃っているようだ。

 歩兵の射撃が気になるのだろう。


「あれは嫌なんだよな」


 小銃弾が砲塔や車体を叩く音は聞いていて不快だ。貫かないと分かっていても車内に鳴り響く。しかも自分では止める事は出来ないし図体がデカいから四方八方から撃たれる。

 撃たれすぎて発狂して車外に飛び出したくなるほどに。

 ディアスも初陣の時はあまりの銃撃にハッチを開けて逃げ出したかったが、他の車両に乗っていた同期が耐えられず飛び出し、小銃弾を全身に浴びて死んだのを見て冷静になれた。

 おかげでディアス達は見つかることなく日本軍の真横に進出できた。


「撃て!」


 日本軍戦車の側面に向かって放った。

 流石に横腹に至近距離から砲弾を浴びたらお終いだった。装甲を貫通し内部で爆発して吹き飛ばした。

 味方も発砲し一両は外したが一両は転輪を破壊し、行動不能にした。


「良し! 撃ちまくれ!」


 ディアスはその後も砲撃を続けたが、気が付いた日本戦車が方向転換してディアス達の元へやってくる。


「クソッ 連中練度が高い! 後退だ!」


 後ろの敵戦車が進出し味方の盾になってディアス達の射撃を邪魔する。流石に正面からシャーマンの主砲で撃ち抜くことは出来ない。


「右に新たな戦車!」


 視界に新たな戦車が入ったのに気が付いてディアスは注意を促したが、すぐに喜びの声を上げた。


「いや、アレはシャーマンだ! 味方の戦車だ!」


 何処かの味方が後ろに回り込んできたようだ。これなら日本戦車の背後を、戦車の装甲の薄い部分を貫ける。

 しかし、ディアスは違和感を覚えた。

 その正体に気がついたとき、ディアスは叫んだ。


「退避しろ! 奴は……」


 そこまで言ったとき、ディアスの目と合っていたシャーマンの砲口が火を噴き、飛び出してきた砲弾がディアスの戦車の中に飛び込み炸裂。

 ディアス達は天に召された。

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