四式戦車奮戦

「第二、第三、第四中隊、横隊列を形成。正面の米軍に対して砲撃開始!」


 西の指揮下にある六個中隊の内、四式戦車を装備する三個中隊が横に並び一斉に砲撃を始めた。

 完全に新規設計されただけあって四式戦車の能力は凄まじかった。

 搭載する長砲身七五ミリ砲の威力はシャーマンを正面から撃ち抜くには十分だった。

 四式戦車が一発放つ度にシャーマン戦車は砲弾に貫かれ爆発して行く。

 慌てたシャーマンは、搭載している七五ミリ砲を放つ。

 だが、四式戦車の分厚い正面装甲に弾かれ、貫通できない。

 日米戦初期に戦車の正面装甲を撃ち抜かれたという前線からの悲鳴を受けて、仮想敵であるT34の主砲に耐えられるだけの装甲を四式戦車に与えた結果だった。

 シャーマンも分厚いが、四式は更に分厚い。

 島での戦いでは戦場が狭いため至近距離での乱戦となり、五〇〇メートルでの砲撃戦になると考え、装甲を当初より厚くしていた。

 しかも装甲板製造技術が遅れている日本は車体と装甲の完全一体成形出来ず、リベットなどで接合する必要がある。

 結果、車体重量が全備重量で三〇トン以上にと増えてしまった。

 だが、日本が開発した戦車用ディーゼルは世界でも指折りだったことが幸いした。

 五〇〇馬力の出力を発揮するディーゼルエンジンが四式戦車に機動力を与え、硫黄島で縦横無尽に機動する事を可能にした。

 迅速にシャーマンの懐に飛び込み、至近距離からシャーマンを撃ち抜く。

 回り込もうとしたシャーマンもいた。


「隊長! 右から回り込んでくる戦車がいるそうです!」

「右の第三中隊、方向転換! 迎撃しろ」


 だが、陣地に隠れていた歩兵が見つけ出し後方の第一中隊――偵察用軽戦車のため投入せず歩兵との連絡役として歩兵部隊司令部にいた彼らが無線で西達に報告する。

 西はすぐさま一部の中隊を方向転換させて迎え撃ち奇襲を阻止した。

 むしろ彼らは四式戦車を前に出して逆襲し返り討ちにする。

 迫ってきたシャーマンに対して正面から砲撃を浴びせ破壊。

 反撃は正面装甲ではじき返し、何事も無かったように撃ってきたシャーマンに打ち返し撃破する。

 四式戦車の前に次々とシャーマンは炎上していった。

 破壊され吹き飛んだシャーマンの車体を押しのけ、三個中隊三〇両の四式戦車は米軍を蹂躙していく。


「よし! 皆、良いぞ!」


 シャーマンを次々と撃破していく様子をハッチから身を乗り出してみていた西は満足していた。

 四式戦車の性能もそうだが部下達が上げる事が西中佐には嬉しい。

 元外務大臣の西徳次郎のことして生まれた西竹一中佐は鷹揚で天真爛漫な性格のため分け隔て無く接するし喜ぶ。

 部下達も、西の人柄を慕っていた。他の部隊の兵士にも優しい西は硫黄島でも人気のある士官だ。

 長身で美形の西は1932年愛馬ウラヌスと共に参加したロサンゼルスオリンピック馬術金メダリストという輝かしい経歴もあり、人々から愛されている。

 西が連隊長に選ばれた理由の一つがその人柄であり、人望のためだった。

 日本のみならず、米軍の将兵もロサンゼルスオリンピックでの活躍を覚えていた。日本人離れした長身と巧みな馬術に魅了され、記憶していた人々が硫黄島に西が派遣されていると知り、投降するよう連日ビラをばらまいたり、放送したくらいだ。

 さすがに上陸して以降は激戦のため中断していたが、西はそれらの勧めを黙殺し、日本軍指揮官として反撃の指揮を命じていた。


「米軍を硫黄島からたたき落とすんだ」


 西は一切の躊躇なく、むしろそれが軍人として応援してくれた人々に対する礼儀。

 国を背負って戦うのはオリンピックも戦争も同じであり、手を抜くのは失礼だと思い、投降を拒否し、全力で戦っていた。


「皆、物陰に注意しろ! 陰から奇襲されないようにな。歩兵にも前進して残敵掃討するよう依頼しろ」

「はい」


 西は反撃に成功しても気を緩めず、米軍の反撃を警戒しながら進んでいった。

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