四式戦車と戦車第二六連隊

「ブリキのような日本戦車とは違うぞ! デカいぞ!」


 二号車を撃破した日本戦車を見てディアス叫んだ。

 フィリピン戦で日本軍が新型戦車を投入したことは聞いていた。

 僅かながらもレイテの地上戦から脱出した兵士がいて日本軍の新型戦車について報告していた。

 眉唾ものとされていたが、上陸前の写真偵察により見たことのない戦車を発見し注意喚起がなされていた。


「一時後退しろ! 砲手! 目標! 日本軍の新型戦車! 停止と同時に発砲! 運転手! 合図と共に止まれ!」


 手早く指示を出し、戦車を後退させつつ、射撃のチャンスを掴もうとする。

 日本戦車の砲塔が動きディアスの戦車に向けて照準を合わせようとしている。


(上手いな、当てられるぞ)


 練度が高いせいか戦車の砲口がしっかりとディアスの車両に狙いを付けている。

 だが、そこに付け入る隙がある。


「今だ! 止まれ!」


 停車と同時に日本戦車が発砲した。

 未来位置に狙いを定めていたため、急停車したディアスの戦車の後ろに着弾する。


「撃て!」


 そのままディアスの戦車は発砲。

 日本戦車に命中弾を食らわせる。だが、装甲によって弾かれてしまった。


「畜生! 日本軍の戦車は新型らしい! 注意しろ! 影に隠れろ!」


 仲間の戦車に向かって指示を出すディアスだが、仲間の反応は遅れた。ディアスは上手く窪地に隠れて射撃を逃れたが、隠れるのが遅かった仲間の戦車が餌食になった。




「連隊突撃せよ」


 戦車第二六連隊連隊長西中佐は部下に命じた。

 昨年のマリアナ上陸作戦の際、逆上陸部隊として指定され出撃予定だったが海軍の戦力損耗により逆上陸作戦は中止。参加予定部隊は米軍の上陸が予想される硫黄島へ派遣された。

 そして、連日の激しい空襲と艦砲射撃に耐え今ようやく米軍と直接砲火を浴びせていた。


「連隊長、また一両、敵のシャーマンを仕留めました」

「四式戦車は使えるな」


 西中佐は、四式戦車によって炎上するシャーマンを見て満足そうに頷いた。

 ノモンハン事件と、欧州大戦における戦車戦の推移は日本陸軍の近代化を促した。

 対戦車戦闘を主眼に設計されはじめていた。

 こうして一式戦車と三式戦車が生まれた。それでもまだ機動力を重視していた。

 だが、急速に防御優先へ方針が変わったのは、ソロモン以降だった。

 撤退戦、島々での防衛戦が殆どとなり、その時投入された米軍戦車によって日本戦車が撃破されたことは陸軍、特に機甲部隊と攻撃を受ける歩兵を驚かした。

 上陸戦は上陸機材の能力不足から重戦車の投入が難しいと考えられていた。

 しかし米軍は戦車揚陸用の舟艇や水陸両用戦車を開発し投入。失敗や損耗を重ねながらも上陸戦へ投入した。

 特にM4戦車の投入は脅威だった。

 M3でさえ、日本戦車では歯が立たないのに、更に上のランクの戦車を投入されては勝ち目がない。

 僅か数両だけでも上陸されたら対抗手段がなければ、米軍に一方的に蹂躙されてしまう。

 対戦車砲を配備しても、シャーマンの撃破には大口径砲が必要であり、発砲は位置の露見を意味する。大口径砲のため重すぎて迅速な離脱が不可能。

 一両を仕留めたら二両目はない事態が多発した。

 難攻不落のシャーマンを日本軍将兵は<動く要塞>と呼んで恐れた。

 しかも、シャーマンを超える戦車の開発も進められているという情報も入っている。

 太平洋の島々を守る為にも陣地防御用戦車の開発が急務となった。

 元々、日本軍は侵攻作戦、攻め入ることを念頭に装備を開発していた。

 戦車も同じであり貧弱な道路網の仮想敵国、中国大陸での戦闘、作戦運用を念頭においている。重量のある戦車では機動力、中国大陸の貧弱な道路と弱い橋の通過などが不可能と考えられていて軽い戦車を好んだ。

 だが、米軍相手、防御戦闘ならば敵が上陸する前に配備できる。しかも島なら大河などなく、架橋資材も考えなくて良い。上陸も配備時のみで一刻を争う敵前上陸ではないので島の上陸機材や泊地を使い上陸できる、と考えられた。

 ドイツからⅥ号戦車ティーゲルの情報が入ってきた事もあり、防御戦用の重戦車の開発が始まった。

 日本陸軍において初めての重量級戦車だったが、戦局が逼迫したことにより設計は迅速に進められ、四式戦車が開発され、生産が始まった。

 生産された戦車は直ちに次の決戦場と考えられた硫黄島へ優先配備され西中佐の元に送られた。

 そして今、その実力を発揮していた。


「ようやく四式中戦車のお披露目ですね」

「ああ、米軍をおびき寄せるために出撃出来なかったからな」


 西はハレの舞台を喜んだ。

 本当なら上陸開始と共に海岸に突入し米軍をたたきのめしたかった。

 だが、栗林中将の命令で、米軍を十分に上陸させてから包囲殲滅する方針により今日まで待機を命じられていた。


「だが、待っていた甲斐があった。思う存分に攻撃しろ」

「はいっ」


 西の部下達は、これまで抑えていた闘志を爆発させ突撃していった。

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