摺鉢山
上陸二日目となる20日の戦闘は夜明けと共に洋上の戦艦及び巡洋艦による艦砲射撃から始まった。
日本軍の砲兵陣地があると思われる地区に向かって各艦が指定された分の砲弾を撃ち込んでいくのだ。
ただ、高速戦艦隊は、レイテのように日本艦隊の船団突入を恐れるスプールアンスが日本艦隊迎撃の為、手元に置きたいがために投入を拒否し実現しなかった。
なので元から上陸支援を行っている旧式戦艦隊のみで砲撃する事がターナーには不満だった。
しかし、旧式戦艦の艦砲射撃でも砲撃は凄まじく、日本軍は洞窟陣地に籠もるしか無かった。
艦砲射撃が終わると、空母から発艦した海兵隊航空部隊――海軍の空母に便乗させて貰っている攻撃機が、生き残った陣地を攻撃する。
「前進!」
攻撃が終わると海兵隊は前進を再開した。
前日大損害を受けた第二四および第二五海兵連隊も残存兵力を再編制して前進をする。
だが、彼らはすぐに地面に伏せた。
「砲撃だ!」
艦砲射撃と空爆から生き残った日本軍が攻撃を再開したのだ。
「畜生! 連中は不死身か!」
海兵隊員達は地面に伏せて砲撃をやり過ごすしか無かった。
だが、砲撃が終わっても日本軍の攻撃は続く。
特に酷かったのが二五ミリ単装機関銃だ。
元々防空用に配置されていた機銃なのだが、小型のため数が無いと有効な防空射撃が出来ない。その上、命中しない、すぐ加熱するなどの欠点があるため、本来の用途では今一評価が低い。
だが、陸上戦闘へ転用されると評価は変わった。
有効射程が一五〇〇メートル程度であり短いとされているが艦隊防空の話だ。
陸上で一五〇〇メートルは小銃の射程を遙かに超える。
しかも弾の威力は桁違い。
非装甲の船舶の壁を撃ち抜くことぐらい簡単だった。
そして最大射程は八〇〇〇メートル。
密集した地上目標や接岸した船舶には十分な射程と威力を持っている。
そして摺鉢山に配備された機銃は上陸地点に向かって打ち下ろしていた。
そのため上陸用舟艇に被害が続出。
上陸作業に支障が出ていた。
これだけの威力がありながら小型のため何処にでも運べる。しかも米軍はこの砲火を潰そうとしても小さすぎて砲撃や爆撃では狙えない。歩兵が前進して潰すしかないが、猛烈な射撃を浴びる。
伏せて進軍が止まったところへ迫撃砲が降り注ぐ、と酷い状況となっていた。
それでも海兵隊は強引に上陸を強行し、進軍。
南部にある千鳥飛行場へ迫る。
そして二日目正午までに硫黄島最狭部を横断し上陸した東海岸の反対側西海岸に到達した。
硫黄島の分断に成功し、摺鉢山と島中央部の連絡線を遮断した。
ここで予定通り第二八海兵連隊は摺鉢山攻略作戦を開始する。
だが、摺鉢山各所に無数のトーチカを構築した強固な防御拠点となっていた。
艦砲射撃や揚陸されたばかりの105ミリ榴弾砲の直接照準射撃でも陣地の奥に籠もった日本兵を撃破出来なかった。
そして海兵隊が前進を始めると奥から出てきて、攻撃を仕掛けている。
「本戦闘の特色は敵は地上に在りて友軍は地下に在り」
戦闘報告を受けて起草した市丸海軍少将の大本営宛の電文が硫黄島の戦闘を端的に表している。
「敵の陣地を虱潰しに潰せ! 連中の陣地は埋めてしまうんだ!」
報告を受けたターナーは命じた。
だが、無謀な攻撃を強要したわけではない。
対洞窟陣地用の戦術を考えており実践させた。
火炎放射器を持った海兵隊員が坑道を焼き尽くし、火炎が届かない範囲には発煙筒を投げ込み出入り口を確かめブルドーザーで塞ぎ、上部に削岩機で穴を開け、ガソリンを流し込んで放火する。のちに日本軍が「馬乗り攻撃」と呼ぶ攻撃を行い潰していく。
日本軍も対抗する為、火炎放射器を持っている海兵隊員が背負っているタンクを狙撃して邪魔をする。
大量の燃料を加圧しているタンクを撃ち抜かれると周囲に火炎を広げたため、海兵隊に死傷者が続出した。
それでも海兵隊は前進を続け22日までに洞窟陣地の入り口七箇所全てを爆破し閉鎖。
摺鉢山の完全包囲に成功した。
そして第二八海兵連隊第三大隊大隊長ジョンソン中佐は翌朝、摺鉢山山頂への到達をE中隊に命じ中隊長のセヴェランス大尉に山頂に到達したら掲げるよう星条旗を手渡した。
そして彼らは夜明けと共に作戦を開始。
日本軍の抵抗を排除しながら進撃し午前一〇時一五分、E中隊は遂に摺鉢山山頂へ到達し付近で拾った鉄パイプを旗竿代わりに縦28インチ横54インチの星条旗を掲揚した。
「山に星条旗が揚がったぞ!」
これまで死闘を繰り返し犠牲を強いられ士気が低下していた海兵隊だったが、この歴史的瞬間、遮蔽物のない山頂にひらめく星条旗は硫黄島のどこからでも視認出来たため、海兵隊員の士気は大いに高まった。
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