上陸初日の米軍の損害

「上陸部隊の損害甚大です!」


 日付が変り20日の夜明け前、旗艦エルドラドに損害集計がもたらされ司令部は沈黙した。

 初日だけで死傷者三〇〇〇名以上。

 無理に上陸させたため、三万人以上の兵士を硫黄島に上陸させる事が出来たが、そのうち一割の損害が出てしまった。

 特に第二四および第二五海兵連隊は三割近い損害を出している。通常なら戦闘不能、全滅判定で後退させるべきだが、防衛線の維持に彼らが必要なため死守を命じている。

 タラワの三割に比べればマシだがサイパン島並みかそれ以上に酷い数字だった。

 絶対数でも被害は大きくノルマンディー上陸作戦最大の激戦地オマハビーチで上陸日当日に被った二〇〇〇名を上回る最悪の数字だった。


「夜襲はあったか?」


 日本軍は上陸作戦があると必ず夜襲と万歳突撃を仕掛けてきていた。

 上陸したばかりの部隊は態勢が整っておらず、撃退しやすいからだ。

 だが、米軍も何度も日本軍の攻撃を受けており、機関銃の弾幕射撃の用意と周囲を照らす照明弾の用意をして待ち構えていた。


「いいえ、日本軍の攻撃はありません」


 だが硫黄島では日本軍の反撃、夜襲とバンザイアタックは無かった。

 これまでの戦訓により栗林中将が効果が殆ど無いと判断し禁止していたからだ。

 さすがに現場レベルでは小規模な反撃は行っていたが、これまでのような大規模な夜襲も突撃もなく、待ち構えていた海兵隊員達に肩透かしを食らわせた。


「日本軍の砲撃は止まないのか?」

「はい、依然として盛んに砲撃は続いています」


 代わりに、硫黄島の各所から上陸地点へ向かって砲撃が一晩中続いた。

 特に大口径砲が使われ損害が続出した。

 第二三海兵連隊第一大隊は司令部に直撃があり大隊長と作戦参謀が戦死した。

 他にも被害が続出し、指揮系統の再編が急務となった。

 そこへ轟音が響いた。


「なんだ!」


 ターナーが怒鳴るとすぐに返事が、凶報がもたらされた。


「第四海兵師団の燃料弾薬集積所に直撃弾! 揚陸させた燃料と弾薬が誘爆し大半を喪失しました!」

「なんてことだ」


 いかに精強な海兵隊でも燃料弾薬が無ければ戦闘力を発揮出来ない。特に師団の集積所が破壊されたのは痛い。

 上陸した主力二個師団の内一個が戦闘不能になって仕舞う。


「直ちに他の師団と軍団の備蓄分から融通し第四海兵師団へ回せ」

「任務部隊の備蓄分を使っても構わない」

「はい!」


 スミスとターナーがすぐさま指示を出し対応策を出す。


「さて、今日の作戦はどうする」

「最大の問題は、摺鉢山だ」


 ターナーの言葉スミスは地図上の硫黄島南端の山を指す。

 硫黄島で最も高い山の上、上陸地点を見下ろせる要所だ。

 ここを占領しない限り、日本軍に上陸地点を見下ろされる。

 高い山のため配備されている大砲の数は少ないだろうが、観測点として使われたら厄介だ。


「第四海兵師団および第五海兵師団は予備も投入して前進を継続。上陸地点とは反対側の海岸まで前進し摺鉢山と硫黄島中央を分断。その後は第二八海兵連隊を使い摺鉢山を攻略。残りの連隊は中央部方向へ進軍し硫黄島占領を目指す」

「それしかないな」


 作戦計画通りではあったが、予定からは大きく遅れていた。

 本来なら既に中央部まで占領しているはずが、海岸から僅か五〇〇メートルの範囲までしか進軍出来ていない。

 だがもはや作戦の変更は不可能だ。

 遅れが出ながらも予定通りに進めるしか無かった。


「第三海兵師団はどうする?」


 スミスは尋ねた。

 海上には予備兵力として無傷の第三海兵師団が待機している。

 攻撃に参加しなかったので攻撃力は十分にあり、一挙に戦局をひっくり返せる可能性があった。


「止めておこう。今はまだ上陸地点が狭すぎる」


 一瞬、投入しようと思ったターナーだが、止めた。

 新たな師団の投入は混乱を招くだけだし、狭い上陸地点に多数の兵員が密集すると攻撃を受けたとき被害が大きくなる。

 第四海兵師団と第五海兵師団だけで現状を打破し第三海兵師団が上陸出来る余地を作るしか今のところ方法はない。

 投入出来るとすれば、第四、第五師団が更に損害を被り兵員が減ったときだ。そんな状況に至らせたくない。


「攻撃前に支援の艦砲射撃と航空爆撃を行って貰いたい」

「直ちにスプールアンス長官に頼む」


 スミスの意見を受け入れたターナーはすぐさま動いた。

 いがみ合う二人だが、互いの能力は認め合っていた。

 真っ当な意見を意地で拒否するなどという、部下を無闇に死地に落とすようなことなど断じてしないのだ。

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