硫黄島上陸作戦開始

「上陸地点の状況は分かっているか?」


 19日早朝、上陸作戦の当日ターナーは旗艦である揚陸指揮艦エルドラドに設けられた司令部で部下に情報を確認する。

 昨夜も深酒をしていたが、元々酒に強い体質であり朝には酒の影響は抜けていた。

 規律違反の飲酒を許されるのもこうした酒への強さ、タフさがあるからだ。

 テニアンのような醜態、出来上がった状況で記念の国旗掲揚式に出席する事もあったが、作戦中にそのような姿を見せる事は無かった。


「はい、一昨日より掃海艇とフロッグマン部隊を上陸予定海岸周辺に送り、機雷除去、障害物破壊を行いました。予想通り沿岸に機雷多数が設置されており予定通り、爆破しました。障害物はありません」

「日本軍の反撃は?」

「ありませんでした。作業は順調に行われ、昨日の内に全て準備を終えています。日本軍は我々の攻撃で全滅したようですね」

「そうか」


 部下の言うとおり連日の砲撃により日本軍への陣地に打撃を与えたとみるべきか、ターナーは判断しかねた。

 ペリリュー戦を見る限り日本軍は洞窟陣地へ戦力を移動させている。

 一部占領した時、内部を確認したが艦砲射撃を受けてもびくともしなかった。

 だからこそ十日間の艦砲射撃を要請したのだが、効果があるかターナーは疑問だった。


「戦艦隊上陸前の砲撃を開始します」


 六時半過ぎ、ジャンボリー作戦を終えて合流した高速戦艦四隻を含む艦砲射撃が行われた。

 八時過ぎには空母から出撃した艦載機部隊の空爆も始まる。


「機体が海岸の砂を擦るほど低空飛行せよ」


 という指示が下るほどの超低空精密爆撃を攻撃機は行いナパーム弾で地上を焼いた。

 特に目立つ摺鉢山への攻撃は激しく、南北正反対の方向から進入し、山に激突する寸前に南北に分かれる曲芸飛行さえ、戦友を鼓舞するため行われた。

 その時マリアナからもB24が空爆に訪れた。

 最早、攻撃目標はないと新任のルメイ将軍は断ろうとしたが海軍と海兵隊からの強い要請もあり渋々出撃させた。

 だがやる気がない陸軍は航法に失敗し出撃した四四機中僅か一四機しか硫黄島に到達出来ず、しかも雲のために照準出来ず効果は殆ど無かった。

 航空機の空爆が終わると八時半から九時までの間、再び艦砲射撃が行われ硫黄島は爆煙と巻き上げられた土砂で埋まる。


「生きている奴なんていないだろう」


 上陸前の仕上げとしての大規模艦砲射撃、その威力を見て思わず呟いた程だ。


「上陸開始!」


 九時過ぎ、艦砲射撃が終わり上陸が開始された。

 第四、第五海兵師団の第一波が揚陸艇二五〇隻、水陸両用装甲車アムトラック及びアムタンク五〇〇両に分乗してドック型揚陸艦及び輸送船より発進。

 隊列を形成すると海岸へ進撃し一斉に上陸した。


「上陸成功」


 上陸部隊の報告に旗艦エルドラドの司令部で歓声が上がる。

 その後も上陸は続き、午前十時までに第三波、九〇〇〇名が硫黄島に上陸していった。


「日本軍の抵抗は微弱」

「我が艦砲射撃のために敵は痛撃を与えられ沈黙したものと思われる」

「我が軍は全線に渡って二〇〇ヤード前進」


 どれも景気の良い報告であり、事前の艦砲射撃によって全滅したと米軍は考えていた。

 大きな被害はなく、米軍は順調に上陸作業を進め、浜辺には多くの部隊と装備、物資が集積されていく。


「畜生、歩きにくいな」


 だが、上陸後の進軍は難しかった。

 火山灰の多い海岸は歩きにくい。

 特に重量のある車両はタイヤは勿論、キャタピラさえ埋まってしまう程だった。

 しかも、浜辺と内陸部の間は急な崖になっており、乗り越えるのが困難であり進撃を遅らせた。


「まったくやり過ぎじゃねえのか。島をこんなになるまで爆弾と砲弾を撃ち込みやがって歩きにくいったらありゃしない」


 あまりの歩きにくさに上陸した海兵隊員達は文句を言う始末だった。

 だが、彼らの軽口もそこまでだった。

 ようやく海岸の急な崖を登りきり、内陸部へ前進を始めた頃だった。

 十時過ぎ、栗林中将の命令により一切の発砲を禁止されていた日本軍が砲火を開き、米軍への反撃を開始した。 

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