硫黄島攻略決定

「では、次の作戦は硫黄島攻略ですか?」

「そうだ」


 ワシントンを訪れた太平洋方面連合軍最高司令官ニミッツの問いかけに合衆国艦隊司令長官キング大将は答えた。


「報告書にある通り、日本軍を倒すには沖縄を攻略しなければならない。だが、我が軍の補給線の頭上に位置する硫黄島を確保しなければ補給線は不安定だ。今も日本軍の攻撃をマリアナは受けている」


 キングとしてはマリアナが攻撃されても良い。

 派手だが戦果に乏しい戦略爆撃を行い国民や上層部の関心を集めた陸軍航空隊が戦後空軍に独立し海軍の縄張りを荒らすことは目に見えている。

 せいぜい、先日のように失敗して醜態をさらして貰いたい。

 マリアナなど海軍の哨戒機基地としての役割で十分だ。

 だが、拠点としてのマリアナには価値があり攻めることが出来る硫黄島を確保出来るに越したことはない。


「分かりました」


 ニミッツは了承した。

 硫黄島の戦略的重要性を理解していたし、ここを攻略しなければ今後の作戦に支障があると判断していた。


「直ちに準備に入るように、硫黄島の攻略予定は来年二月中旬だ」

「来年二月」


 キングの言葉にニミッツは驚いた。


「短すぎます。戦線縮小と整理のため今暫く時間が必要です」


 戦死したマッカーサーの後を引き継ぎ、指揮下の陸軍部隊を掌握するのに今暫く時間が掛かる。


「もう二ヶ月延期して貰えませんか」

「ダメだ。四月に予定している沖縄に間に合わない」

「既に決定しているのですか」

「そうだ」

「ならば沖縄攻略を遅らせてください」

「無理だ」

「どうして」

「六月以降は台風の時期だ。艦隊が沖縄に接近すれば、被害が出ることが予想される」


 米海軍にとって台風は鬼門だ。

 艦艇の多くが荒天での行動を想定していない。

 先のフィリピン沖海戦の前でも台風が艦隊に来襲し激しい波によって少なからぬ損害を被っていた。

 まして上陸作戦など不可能だ。

 台風の合間を突いて実行しても、次の台風が来たら上陸した部隊は孤立する。

 そこへ日本軍の反撃があったら壊滅してしまう。


「台風シーズンになるまえに沖縄を攻略したい」

「ですが、早すぎます」

「リメンバー・レイテだ。レイテの雪辱を果たさなければならない」


 キングは苦しい胸の内を打ち明けた。

 レイテの損害は大きく、日本軍の攻撃を許した海軍は国民の信頼を失っている。

 大統領のお陰で何とか支持は繋いだが、国民や議会が海軍を見る目は冷め始めている。

 ここで戦果を挙げて威信を回復しなければ、戦後海軍は冷めた飯を食わされる事になって仕舞う。


「なんとしても早急に戦果を挙げるのだ。そのためにも君たちには頑張って貰いたい」

「ですが」

「ニミッツ元帥」」


 部屋の主、ルーズベルトが口を出した。


「私の海軍が、日本海軍に負けるような木偶の坊なのかね?」


 海軍次官を勤め上げただけにルーズベルトの海軍への愛着は強い。

 それだけに先の海軍の失態は許せないものがある。


「何も無理をさせるわけではない。君たちには十分な兵力を与えている」


 失った空母を補充し、船団も回復。マッカーサーの元にいた部隊も指揮下に入り、兵力は前よりも多い。


「ですが、作戦を行うには時間が」


 だが大兵力を動かすとなると事前の準備や調整に時間が掛かる。

 大規模故に一日に必要な物資が膨大で事前に準備しておかなければ、飢えが発生してしまう。

 しかも、大兵力のため護衛や防衛、迎撃の計画を立てなければ、レイテのように日本軍の反撃に遭い、壊滅してしまう。

 大敗北の後だけにニミッツは慎重に計画を進めたかった。


「これは大統領命令だ。硫黄島を二月に攻撃し給え」

「……分かりました」


 ニミッツは了承した。

 ルーズベルトとしても先の選挙で勝ったが、大勝利を収めなければ、大統領の資格なしとして弾劾裁判で罷免されかねない。

 ただでさえ慣習的に二期までとされる大統領職の四期目に入っていることに反発している人間は多い。

 戦時ということで特例として在職しているが、敗北が続けば疑問が出てくる。

 ルーズベルトも戦場での勝利を必要としていたのだ。

 かくして、硫黄島攻略は決定した。

 佐久田の予想通りに。

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