硫黄島沖迎撃戦再び
「右上空より敵機接近!」
硫黄島が近づいた時点で再び戦闘配置に就かせた直後、報告が入ってくる。
「予想通りか。組み直しておいて良かった」
爆撃コースの時は左下がりだったが、組み直したとき右下がりに直した。
今度は西が編隊の右方向なので右上方へ火力を集中する陣形に切り替えたのだ。
「敵機は多数です!」
「逃がさない気か」
予想通り、多数の硫黄島駐留の迎撃戦闘機が待ち伏せている。
コックピットからでも雲霞のように群がる日本機の機影が見える。
リーチ達の日本行きの際、迎撃。迎撃範囲から出て行くと彼らは一度硫黄島へ戻る。そして燃料弾薬を補給して再び出撃してくるのだ。
東京までは硫黄島から一二〇〇キロ、往復で二四〇〇キロ。
俊足のB29でも四時間以上かかかる。
日本の迎撃隊が硫黄島で燃料弾薬の補給を行い、再出撃できるよう準備する時間は十分だ。
勿論アメリカ側もB29が帰ってくる時刻、硫黄島上空の通過前にマリアナのB24が硫黄島を爆撃する計画だ。
だが、行きと帰りの一日二回の攻撃では、一回につき参加出来る機数が少なくなる。
攻撃の効果は限定的だ。
それでも日本機位迎撃時間を制限するくらい、リーチ達が無事に帰れる確率が上がるくらいは期待して良い。
B24の連中も命をかけて、命と引き換えに任務を遂行している。
高性能のB29より防御の薄いB24では日本機の迎撃のなか突き進み爆撃するのはキツい。
B17を使うべきだが、航続距離が短いため足の長いB24が太平洋戦線に優先して配備されている。
海ばかりで基地の少ない太平洋戦線では足の長いB24の方が無事に帰還出来る可能性は高いと、司令部は判断している。
ドイツ軍より日本軍は劣るとワシントンは考えているようだが四門の二〇ミリを喰らったことの無い連中には日本軍の強さなど分からないだろう。
その点、ひ弱な装備で爆撃に向かってくれるB24の連中は暢気な司令部の連中より遙かにマシだ。
彼らの努力と犠牲に報いる為にも、無事に切り抜けなければ。
「編隊を維持しつつ、速力を上げて切り抜ける」
リーチ達は速力を発揮して逃れようとする。だが、正面から一機が突っ込んできた。
上空からだと上昇に時間が掛かるし、正面なら防御火器も比較的少ない。同高度の旋回戦は戦闘機が高度を落とさず、何度も攻撃できる利点がある。
正面に火力を集中して弾幕を張って迎え撃つが、敵も優秀だ。
射程外からロケット弾を放って噴煙と爆発の煙に紛れて突入してくる。
煙を通り過ぎたら正面に敵機という事も少なくない。
前方に位置する機体は特にそうだ。
「!」
ロケット弾攻撃を受けて正面に煙が展開された。回避する余裕は無いので突っ込む。
幸い直ぐに晴れたが、正面にトニー――三式戦が突っ込んでくる。
日本機がビッグバードに銃撃を浴びせる。
左に滑らせて胴体への直撃は防いだが、銃撃は右翼へ集中し第一エンジンに被弾して火を吹く。
「燃料カット! 消火装置は作動しているか!」
「カットしました! 消火装置は作動しています!」
「火が消えません!」
マグネシウム合金が燃えだしたか。
「仕方ない、消火のために急降下する。通信員、指揮官機に消火のため降下すると伝えろ。全員何かに掴まれ!」
B17より大きいB29だが急降下も可能なほど機体が頑丈だ。それも戦闘機並みの速度で降下することが出来る。
しかし、消火できるほどの速度かどうかはまた別の話だ。
何しろ消防車でさえ消せないほど盛大に燃える。
降下角度を増し速度が上がっていく。
「消えたか!」
「まだです!」
副操縦士の報告にリーチは焦る。しかし、消えないなら更に降下角度を増す。
じれったい時間が過ぎていく。
徐々に目の前の海面が近づき、波模様が鮮明になっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます