硫黄島迎撃隊の追撃
早く消えてくれ。
出火して燃えさかるエンジンを消火するため、急降下しているがこのままでは海面に激突だ。
神に祈りながら、リーチは早く消えろと念じる。
「消えました!」
「上昇する!」
待っていた副操縦士の報告を受けリーチは思いっきり操縦桿を引っ張る。空でも三二トンもの重量がある機体は重い。
速度が出ていることもあり、操縦桿は固定された杭のように重い。
「手伝います」
ファサールが操縦桿に手を掛け後ろに引っ張る。通信員も副操縦士の後ろから手伝う。
帆船時代の操舵手のように四人で操縦桿を引っ張りビックバードは機首を上げはじめた。
海面ギリギリを滑るように飛行し上昇、再び水平飛行へ戻った。
「何とか持ち直したな」
機内に何度目かの安堵の声が漏れた時、機体に衝撃が走った。
一機の三式戦が左上空へ通り過ぎていく。
「どうしたやられたのか」
「尾部の射手がやられました。銃も被弾し射撃不能」
最後部の機銃座がやられた。尾部からの射撃は不可能となる。
それを知ってか三式戦は真後ろについて銃撃を加えてくる。
「上部銃座狙えるか?」
「ダメです。垂直尾翼に隠れて撃てません」
「野郎、こっちの弱点を判っている」
胴体上にある上方銃座は尾翼のある方角を撃てない。そこは尾部銃座の担当だが潰された。
編隊を組んでいれば死角をカバーする僚機が援護して撃墜あるいは撃退してくれるが、単独行動中では無理だ。
「よし、上部銃座少し上に向けていろ。やるぞ」
「いきますか」
「出来る限り出力は上げます。こちらで調整しますので操縦を頼みます」
「射撃準備良し」
リーチの指示に副操縦士と機関士そして射手が答える。
「よし、一、二、三、行け!」
リーチは思いっきり操縦桿を引っ張った。
ビッグバードは機首を上げ、急角度で上昇していく。角度は更に増して行き垂直上昇する。
B29は運動性能が極めて優れている。試作機など随伴していたヘルキャットの目の前で急上昇して宙返りしたことがあったほどだ。
爆弾を投下した後の身軽な状態ならB29には十分に出来る飛行だった。
機体が徐々に上がり、三式戦の姿が見えてくる。
「射手! 撃て!」
目の前で垂直上昇したため背後の三式戦に機体上部を見せた。尾翼の死角がなくなった上部銃座二基四門のブローニングが三式戦に向かう。
突然の攻撃に三式戦は避けられず翼に被弾して降下した。
「やったぜ。撃墜だ!」
若い射手がはしゃぐが、リーチには致命傷には見えなかった。
被弾したが被害は軽く、多分、硫黄島まで帰るだけの余力はあるだろう。
だが重要なのは三式戦を撃墜した事ではない。ビッグバードを再度攻撃してくる気配がなく、硫黄島に向かって引き返していることであり、ビッグバードが助かった事だった
「燃料は? 迂回コースはとれるか」
「足ります。機体が軽いのでエンジン三基でも飛べます」
「硫黄島から離れるコースを出してくれ」
「はい」
リーチは安堵した。硫黄島からの攻撃を避けられるのは有り難かった。
航法士に硫黄島から離れる、かつ、燃料が着陸まで保つルートを算定させ、ビッグバードを操縦する。
「サイパン島です」
航法士が報告する。陸地を見てリーチはホッとする。
上空には帰還したばかりのB29が飛んでいる。離陸は短時間で行えるが着陸には倍の時間が掛かる。数が少なくなっているが、数十機の大編隊を下ろすには時間が掛かる。
「管制に被弾しているので早めに着陸できないか、確認してくれ」
「はい」
その時、リーチは自分たちより低い高度、海面スレスレを飛ぶものを視認した。
「何だ?」
リーチの見つけた機体はB29が着陸している飛行場へ向かっていた。
B29ではない双発機で、機体は細い。米軍機はしない塗装は緑で翼に日の丸があった。
「畜生! ジャップだ!」
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