爆撃コース

「迎撃しろ!」


 爆撃針路に乗るための旋回で編隊が大きく乱れたところへ日本軍の迎撃機が襲いかかる。

 セオリー通り、迎撃機は編隊から離れたB29に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 間隔が開き孤立したB29へ日本軍の戦闘機が集中する。集中攻撃を受けたB29は被弾し撃墜されていく。

 勿論、B29側も無策ではなく、左下から右上にかけて編隊が組まれ、左上方へ最大の火力を発揮できるようにしている。

 それでも旋回で間隔が広がったため弾幕が薄くなるのは避けられず、日本軍機の侵入を許してしまう。


「弾薬を節約しろ! まだ来るぞ!」


 ようやく旋回を終えた時、またも数機が落ちていた。

 被弾した機体も多い

 残った機で編隊を維持しながら目標へ向かう。

 この頃になると日本軍の攻撃は、攻撃の機会を狙った迎撃では無くなり、度々無茶な攻撃を起こすようなる。

 最早爆撃目標までの余裕が無くなり、ここで撃墜しなければ、工場が危険だ。

 その切迫感が無茶な攻撃、激しい迎撃を巻き起こす。

 当然B29は激しい攻撃に晒され損害は徐々に増える。

 コンバットボックスを組み直し火力を投入しても、攻撃を仕掛けてくる日本機が多く、徐々に消耗する。

 回避したいが、編隊が乱れるし、爆撃コースに乗っている。

 目標へ爆撃するにはコースから離れるわけにはいかない。

 日本機が攻撃してきても耐えて針路を維持する以外、出来る事は無かった。


「目標に接近!」


 永遠と思える長い迎撃の後、ようやく待っていた言葉が響いた。


「爆撃用意! 爆弾庫を開け」


 作戦で指定された高度九一五〇メートルを維持して爆弾庫を開ける。


「爆撃手、操縦を代わるぞ」


 リーチは機体制御を爆撃手であるファサール大尉に渡した。

 ノルデン照準器は非常に優秀で最大の特徴はジャイロを搭載しており、自動操縦と連動させることで爆撃手が機体を方角だけだがコントロール出来る。

 ノルデン照準器が出来る前は爆撃手の指示で機長が操縦していた。だがノルデン照準器の開発後は爆撃手が自らのコントロールで目標に向けて爆撃機を操縦できる。

 水平爆撃は爆撃機が目標上空を通過しなければ命中しないため、この照準器はアメリカ軍の秘密兵器であり、高々度精密爆撃の要とも言えた。

 敵に鹵獲されるのを恐れ、墜落したときは確実に破壊するよう命令が出ていたほどだ。


「目標見えません!」


 だが、ノルデン照準器が性能を発揮するには視界が開けて、目標が見えていることが命中の絶対の条件だ。

 下の方は厚い雲いや煙幕で覆われている。

 日本軍は爆撃照準を妨害する為に工場周辺に煙幕展張装置を配備している。爆撃機が近づいたら煙幕を展張して工場を見えなくするのだ。

 原始的だがかなり効く。

 現にB29の編隊は目標を視認することが出来ない。


「この辺りでしょうが、レーダーも不明瞭です」


 雲に覆われても爆撃できるレーダー照準器も装備しているが、精度が悪く。地面の凸凹がノイズとなり工場と判別できない。海面や湖面に隣接する都市を爆撃するなら有効だが、地形に凹凸があり、建物と判別しにくい内陸部を攻撃するのは都合が悪い。


「敵機接近!」


 再び敵機がやって来た。防御弾幕を張る。

 しかし、度重なる日本機からの攻撃を迎撃するため弾薬を大量消費している。節約しながらの射撃となり、銃撃が間に合わない。


「スピリットオブテネシーの下に敵機!」


 僚機の真下、尾翼の下辺りに敵機が滑り込んだ。下手に銃撃を行えば僚機に当たってしまう。銃撃できずに構えている。

 日本機もそれを知っているのか動こうとしない。しかし、動き出した。

 敵機は左回りに上昇するとプロペラを尾翼に接触させつつも、胴体の上を飛行。操縦席の真上に来ると下降した。

 幾ら防弾ガラスを備えた防御力の強いB29でも戦闘機のプロペラを受けては無事では済まない。

 敵戦闘機の重量も加わりスピリットオブテネシーは高度を下げていった。


『全機爆弾を投下せよ!』


 指揮官機から命令が下り全機が爆弾を投下する。

 日本軍機の攻撃が強すぎてこれ以上の損害は許容できない。工場の位置もわからないため爆弾を無照準で落とす、正確には捨てるしかない。

 各機が積み込んできた五〇〇ポンド爆弾一〇発を一斉に投下した。


「一発くらい当たってくれよ」


 これまでの苦労がせめて少しでも報われるように祈らずにはいられない。

 多くの機体が撃墜されたし、苦労したのだ。だが、敵うことは殆ど無いだろうと思っていた。

 爆弾を落として身軽になったB29は速度を上げ、日本の迎撃機を振り切る。

 東京上空を通過して銚子を超えた所でようやく南に向かって飛行する。

 あのまま南に向かっていたら再び編隊が乱れて日本軍の攻撃を受けていた。

 だから日本軍の攻撃を受けない太平洋上空で変針するのが良いのだ。

 日本機を振り切るべくスロットルを上げてB29は離脱する。

 身軽になったB29への追撃は日本機には難しく、追撃は殆ど無く、離脱に成功した。

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