離陸準備
乗機であるビッグバードの前に到着するとリーチ達は整備士の補助を受けつつ出撃準備を行う。
燃料三.五トン、五〇〇ポンド爆弾一〇発と防御火器であるブローニングM2一二.七ミリ機銃連装五基、合計一〇門用の弾薬六〇〇〇発。他にも人間のための食料や消耗品ビッグバードに詰め込む。
出撃の為には、七トン近い物資を積み込む必要がある。
出撃機全機が同じ作業をしているため、てんやわんやの状況だ。
総数で百を超える機体が出撃予定ため今回の作戦では七〇〇トン以上の物資を消費する。訓練でも爆弾こそ搭載しないが大量の燃料を消費する。
戦略爆撃は行うだけで大変なのだ。
大変だが離陸直前に行わないといけない。
前日から余裕を持ってやろうとすると、大変な事になる。
準備が終わり始めようとしている時、サイレンが鳴り始めた。
「空襲警報だ! 退避!」
乗員も地上整備士も全員が近くの防空壕へ逃げ出す。
マリアナ失陥以来、日本軍は夜間を狙って攻撃を仕掛けてくる。
しかも、ほぼ毎夜攻撃してくる。
迎撃戦闘機隊が出ているが、彼らの攻撃は執拗で全てを迎撃出来ない。
今回は出撃で夜中に起きたが明け方に攻撃を食らい、眠りを妨げる。
防空壕に入り全員がいるかどうか確認すると、上空からパッパッパッという独特の音が響いてきた。
日本軍の無人飛行爆弾、梅花だ。
ドイツのV1無人飛行爆弾を改造した物で、弾薬搭載量が八〇〇キロから四〇〇キロに減少している。
その分、射程が延長されており六〇〇キロは飛べる。
硫黄島を離陸した機体から攻撃可能地点で切り離し、空中発射。
あとは自動でマリアナに向かって飛ぶ。
迎撃機の行動範囲外から放たれるので厄介だ。
撃墜しようにも命中させると盛大に爆発し、迎撃機にも被害が出る。
翼を引っかけてバランスを崩し落としているが、夜間だと接触する恐れがあるため、難しい。
夜間戦闘機B61ブラックウィドウが、旋回機銃で迎撃してくれているが、数が足りない状態だ。
しかも最近は更なる射程延長型を作り出し一二〇〇キロ離れた硫黄島から地上に置かれたランチャーから直接発進させ放っている。
発射出来る数が増えたため、攻撃回数が増えつつある。
一度放ったら一定距離を飛ぶとエンジンを停止させ、落下させる簡単なミサイルで命中精度はいまいち。だが、数が多いと被害が出る。
しかも、B29の基地は広大なため毎晩何処かに必ず落ちる。
彼らが潜んだ防空壕の近くで爆発が起きた。
近くに落ちたようだ。
空襲警報が解除され、外へ出て周りを見る。
一機のB29が燃えていた。
出撃準備中だったため、盛大に燃えている。
幸か不幸か、各機の駐機位置は離れておいているため、ビッグバードを含め他のB29への被害は無かった。
彼らは、乗機の被害を確認し、渋々飛行可能である事を認めると報告する。
司令部からの命令は、作戦続行。
多少遅れているが、爆撃を敢行するようにとのことだ。
全てが終わって夜が明け始めた頃、援護の為に硫黄島を空襲するB24の編隊が離陸していくなか、リーチはエンジンを始動させた。
副操縦士の後ろに座る航空機関士が温度計に視線を打ち込むように凝視している。
ライト社製R-3350エンジンは二二〇〇馬力の出力を出してくれる非常に高性能なエンジンだ。排気タービンを搭載しており一万メートルの高空でも十分な性能を発揮してくれる。
だが、軽量化のためにマグネシウム合金を多用しており非常にデリケートだ。特に温度管理に気を使う。
温度が高くなると火災を起こし最悪の場合機体を乗員ごと炎上させる。
ロングエンジン――誤りだらけのエンジンと呼ばれるだけあって慎重な操作と管理を要求される。
対策として飛行時間二〇〇から二五〇時間でエンジンを交換するが、常にオーバーヒート気味ではどうしようもない。
特に力が必要な離陸時は最大出力を出すため危険な温度に晒される。
もし火災が起きれば三〇秒以内に消火できるか自分たちが消えるかのどちらかであると機長を含めたクルーは信じており、その運命は航空機関士の腕に掛かっている。
幸いリーチの機関士は真剣に自分の職務に専念してくれている。
これはリーチ自身にも他のクルーにとって良いことだ。
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