第三戦隊の苦戦

 大和、武蔵に無線射撃統制装置が装備されているように、金剛型戦艦四隻にも同じ装置が、装備されていた。

 四隻は比叡座乗の鈴木中将を先頭にしていたため比叡に合わせて砲撃を開始した。

 各砲塔の右砲が放たれ、一六発の三六サンチ砲弾がテネシーの周囲に落ちる。

 アメリカ側も反撃するが、頭を抑えられているため、射撃可能なのは先頭のテネシーののみ。それも、前部主砲群の三連装二基、合計六門のみだった。

 連合艦隊の中で最古参の金剛型は射撃データも豊富ですぐにテネシーを夾叉し、斉射に切り替え、第三戦隊の全砲門――三六サンチ砲三二門がテネシーただ一隻に降り注ぐ。

 三発の内、一発は中央部、副砲群へ命中。

 残り二発はそれぞれ前部と後部の砲塔近くへ命中した。

 だが、防御に定評のあるドイツ帝国戦艦群を想定し、海軍休日時代は日本海軍戦艦を想定して改装されたアメリカ戦艦の一員であるテネシーだ。

 防御に力を入れており、一四インチクラスの主砲に耐えきるだけの装甲と防御を持っており、同クラスの主砲を持つ金剛型の砲撃に耐えた。

 コロラド級と殆ど変わらない防御――コロラド級のベースになったのがテネシー級なのだから当然だったが、一六インチクラスに耐えられる防御持っているため一四インチクラス――三六サンチ砲の攻撃に耐えた。

 その後も金剛型は、砲撃を続け命中弾を与えるが致命傷には至らない。

 砲撃に耐えている間、テネシーは射撃位置を確保するため、左旋回を続ける。


「全艦一斉回頭」


 第三戦隊も併せて一斉回頭を行い射撃位置を維持しようとする。

 だが、いくら高速でも中心点近くにいるアメリカ戦艦に対応しきれるわけがなく、テネシーの司令官が、第三戦隊と同様単縦陣から斜線陣へ移行し射撃位置を与えた。

 後方に続行していたテネシーの僚艦達テネシー、ペンシルベニア、カルフォルニア、ミシシッピが砲撃可能位置へ達すると同時に砲撃を開始。

 第三戦隊との間で激しい砲撃戦を始める。

 互いに全火力を発揮し、壮大な打ち合いとなる。

 だが、主砲サイズはほぼ同じでも、砲門数が違った。

 連装四基八門の金剛型四隻の第三戦隊は三二門。

 三連装四基一二門の戦艦四隻のアメリカ戦艦部隊は四八門。

 手数ではアメリカが上だった。

 第三戦隊は無線統制射撃装置でテネシーただ一隻に対して集中砲撃を行っていたが、分厚い装甲による重防御で第三戦隊の砲撃に耐え続けた。

 一方米軍は各艦が自分の目標へ砲撃を行っていた。

 テネシーに第三戦隊の攻撃が集中したため米戦艦の砲撃は遮られず、的確に射撃が行われる。

 ペンシルベニアは金剛を狙い、中央部に一発命中させた。

 続くカルフォルニアは榛名を攻撃し第四砲塔を直撃し戦闘不能にした。幸いにも注水に成功し被害は拡大しなかったが、発砲出来る主砲の数が減った。

 ミシシッピは霧島を相手に砲撃し、前部艦橋に命中。射撃指揮所を歪ませた。

 すぐさま後部指揮所が指揮を代わり、統制装置も切り替わって砲撃を続けたが、テネシーが相変わらず応戦してくるため、狙いを変えられない。

 それぞれ攻撃する艦に向けて砲撃を切り替えるべきか鈴木中将は悩んだが、止めた。

 砲門数で既に劣勢である第三戦隊は、集中射撃をして確実に仕留めなければ勝ち目はない。


「目標選定を誤ったか。いや、同じか」


 アメリカは標準戦艦、五クラス一二隻が細部は違えどほぼ同じ戦隊と武装を施すことにより艦隊運用面を統一している。

 防御に関しても装甲板はほぼ同じ。

 どの艦と相手をしても同じ防御力だ。

 それに今更、目標を変更しても位置から射撃データを算出し直す必要があり、命中弾を得るまで、その後撃沈に至るまで時間がかかるし、その間に第三戦隊はアメリカ戦艦の砲撃を受け続け、被害が拡大、沈没する可能性もある。

 では、離脱か。

 いや、鈍足のアメリカ艦隊でも取り逃がす、優位な位置から逃れてしまう。

 今の位置を維持するべきだ。

 二水戦を出すべきか。

 いや、戦艦相手だ。

 昼間では駆逐艦が副砲群の餌食になる。

 いくら長射程の酸素魚雷でも有効射程距離まで接近できない。

 接近しても、彼らなら降り注ぐ弾雨をものともせず接近し、刺し違える覚悟で突っ込むだろう。

 だが、それはダメだ。

 この後のレイテ突入で彼らには輸送船撃破、狭い湾内で小回りのきく駆逐艦が攻撃の主力となるべきだ。

 損失は抑える必要ある。


「砲撃続行!」


 鈴木中将は命じた。

 第一戦隊が戻ってくるまで現在位置を確保、米戦艦の頭を押さえ続け、第一戦隊が有利な状況で戦えるようにする、例えどんなに損害が出ても押さえ続けるのが、第三戦隊の今の任務だ。

 少しでも、優勢な位置を確保しようと砲撃を続行するよう第三戦隊と自分に言い聞かせるように命令する。


「上村提督のようだな」


 日本海海戦でも戦力に劣る装甲巡洋艦で東郷率いる第一艦隊が戻ってくるまでバルチック艦隊を押さえ続けた第二艦隊司令長官上村中将もこんな気持ちだったのだろうか、と鈴木中将は思った。

 直後、比叡が被弾する。

 艦首部に砲弾が命中し大破。


「ぐっ」


 砲塔に被害はなかったが、爆発の衝撃が艦橋に伝わり、鈴木中将はよろめき呻く。


「この状態でも撃てるのか」


 第三戦隊の砲撃を受けてテネシーは既に蜂の巣状態、炎上し浮いているのが不思議なくらいだ。

 だが、テネシーは設計通りの重防御を発揮し、未だ発砲した上、命中弾も与えてくる。

 アメリカ戦艦はしぶとかった。


「何とか、ここで沈めれば」


 鈴木中将が呻いたとき、爆発音が響いた。

 テネシーではなかった、アメリカ戦艦の最後尾ミシシッピが多数の水柱に囲まれる中、爆沈したのだ。

 第三戦隊ではない。第三戦隊はテネシーに集中している。

 鈴木中将は笑みを浮かべた。

 誰がやったか分かったし、自分の任務が果たせたからだ。


「第一戦隊! 大和と武蔵が来援しました!」

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