長門と第三戦隊の参戦
第一戦隊の三番艦として続行していた長門は、オルデンドルフ隊の三番艦コロラドと戦っていた。
ワシントン条約により、保有を許された戦艦同士であり、海軍休日時代はよく比較されていた。
互いをライバルとして意識していたし、もし、戦ったならば、どちらが勝つか話題となっていた。
そして今日、1944年10月25日、両者はレイテ沖にて相まみえ、決着が付こうとしていた。
「撃て!」
発砲は長門から行われた。
新造時こそ射程は三万メートル程度だったが、改装により仰角を引き上げた成果で三万八〇〇〇に射程が伸びている。
だが、遠距離での弾着観測、着弾位置の観測が困難なため、三万メートルでの発砲を行った。
コロラドもやや遅れて砲撃を開始し、長門に応戦する。
互いをライバルにして訓練を積んできただけに、両者とも練度では互角だった。
新しくできたため射撃データの少ない大和、武蔵と違い、二〇年以上艦隊に配備された彼女たちは二回の試射で互いを夾差させると、斉射に移る。
最初に被弾したのはコロラドだった。
舷側に長門の砲弾が命中する。
しかし三四三ミリの装甲板へ三〇度の落下角度で四一サンチ砲弾がぶつかり、装甲板を貫通出来ず表面を滑って海底へ落としてしまった。
直後、長門にコロラドの砲弾が命中、第四砲塔弾薬庫真上の甲板に当たった。
だが、開戦前の改装で弾薬庫の装甲強化を行っていったため、貫通されることはなく、誘爆を免れた。
被害も少なく、砲撃に支障は無かった。
その後も互いに砲撃を続け、被弾炎上するも、ほぼ互角の戦いを行い決着は付かなかった。
長門が優速のため、良い位置へ移動しやすいので多少有利だったが、大和武蔵に続行中の上、砲撃開始して間もないため、移動距離が短く決定打にはならなかった。
勝敗を決めたのは四斉射目の長門の砲弾だった。
コロラドの艦尾に命中した四一サンチ砲弾が舵機室を破壊。
取り舵にしたまま、固定されてしまった。
そのまま、コロラドは左へ旋回を始めた。
後続していたテネシー以下の戦艦部隊は続行しようとしたが、途中で操舵不能に気がついた上、自分たちに向かってきたため、回避運動を行った。
そのため、テネシー以下の四隻は偶然にも第一部隊と第二部隊の間に割り込む事が出来た。
だが、そこへやって来たのは、金剛級高速戦艦四隻で編成された第三戦隊だった。
日露戦争前、六六艦隊計画の時代から日本海軍は攻撃力防御力に優れた戦艦を配備した第一艦隊と多少おとるものの速力に優れた巡洋艦からなる第二艦隊を編成。
第一艦隊が敵の攻撃を受け、第二艦隊が速力で敵の動きを牽制しサポートするのだ。
日清戦争の黄海海戦で速力に優れる第一遊撃隊が北洋艦隊を一方的に痛打した戦訓に基づく編成であり、艦艇も、この目的に合わせて攻防に優れた戦艦と速力に優れある程度、戦艦相手でも短時間なら応戦出来る装甲巡洋艦が建造された。
その結果は日本海海戦において、証明されている。
戦艦主力の第一艦隊の東郷が敵艦艇の操艦不能を戦術行動と誤解して、艦隊を離れさせて仕舞ったとき、上村率いる装甲巡洋艦主体の第二艦隊がすかさず敵艦隊の頭を抑え、第一艦隊が戻ってくるまでの間、耐えきり日本海海戦の完勝へ大きく貢献した。
この方針は以後も日本海軍の中心となり、六六艦隊計画の発展版八八艦隊でも基本的な考えとなり、砲力に優れた戦艦中心の第一艦隊と速力に優れた高速戦艦主体の第二艦隊が支援する計画だった。
軍縮条約により八八艦隊が中止されても、この思想は残り、連合艦隊の基本編制、第一艦隊が砲力中心、第二艦隊が機動力中心は変わらなかった。
太平洋戦争が始まり、航空機へ主力が移っても――空母機動部隊の護衛のため第一艦隊が、解散しても戦艦部隊の基本方針として残り訓練と演習は続けられた。
レイテ沖における第一部隊と第二部隊の関係はかつての第一艦隊と第二艦隊と同じであり、第二部隊の第三戦隊はその役目を果たした。
金剛型戦艦は三〇ノットの速力を生かし、アメリカ戦艦部隊の前に立ち塞がった。
「間に入ってきた米戦艦部隊の頭を抑えろ!」
栗田中将から指揮を継承した鈴木中将は、別働隊の指揮官として、第二部隊の指揮官として教科書の見本となるような適切な命令を下した。
アメリカ戦艦が逃げられないよう、また第三戦隊が最高の攻撃力を出せる位置、敵艦隊へT字となるように動いた。
南雲からの指示はなかったが、命令無くとも自らの顕現の範疇で戦策に従った最適な行動を取る。
正に別働隊指揮官の鑑のような指揮だった。
「全艦一斉回頭! 右梯形陣へ!」
単縦陣で長時間の砲撃戦を行うのが定石だが、平行線への時間が惜しい鈴木中将は突入し全艦が射程距離に入ると、一斉に左に回頭させ、右方向の米艦隊へ全砲門が敵に志向できるようにした。
右舷に敵を捉えた金剛型戦艦四隻は、米軍にソロモン以来の悪夢を浴びせた。
「第三戦隊砲撃開始!」
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