砲術家 武蔵艦長猪口
「初弾命中! 敵戦艦撃沈!」
「流石だな猪口は」
大和の艦橋で宇垣は沈没したミシシッピを見て満足して頷く。
十数分前、メリーランドを沈めた後、第三戦隊が後続のアメリカ戦艦部隊と砲撃しているのを見た南雲が救援を命じたのだ。
「長門は一水戦と共にコロラドを仕留めよ。第一戦隊大和と武蔵は直ちに第三戦隊の救援に向かえ」
「了解! 第一戦隊! 長門はコロラドを攻撃! 大和と武蔵は右十六点一斉回頭!」
「宜候!」
命令を受けて宇垣は、命じた。
通常なら旗艦を先頭に順次回頭、旗艦の後ろに後続艦が続くのだが、時間が惜しくその場で一斉に回頭させ、武蔵を先頭にして第三戦隊救援に向かった。
「武蔵に通達! 貴艦が統制射撃指揮を行うよう命ず!」
武蔵が先頭を走っているため敵艦に近く、指揮すべきだ。
宇垣は躊躇無く命令をした。
「大和に返信。安んじてお任せあれ」
命令を受けた猪口は、珍しく喜びをあからさまに表した。
禅が趣味であり、常々全てのモノは有り難いと言い、人徳があり温厚で何時もニコニコしている。だが説教くさく何処か陰気な艦長だ。
だが、同時に海軍きっての砲術家であり、その名声は「キャノン・イノグチ」と各国の海軍関係者の口に上るほどだった。
だが二ヶ月前、武蔵艦長を拝命したときは、第一戦隊の旗艦が大和に指定されていたため、砲術の腕が披露出来ない――統制射撃装置により旗艦大和の砲撃に従うしかない、と半ば諦めていた。
それが、戦況の偶然で武蔵で射撃が、それも大和を従えて砲撃を行える機会が巡ってきた。
砲術家としてこれほどの晴れ舞台はなかった。
「右砲撃戦用意! 射撃指揮所! 手前の戦艦を狙え!」
一番手近な敵戦艦、ミシシッピを目標にした。
普段より射撃訓練を、猪口自ら指揮して行っているため、準備はすぐに完了した。
「距離三万二千! 方位三二五!」
「的速一九ノット! 的針三三四!」
「諸元出ました! 仰角三四度! 方位右四五度!」
「主砲修正完了!」
「大和との無線統制射撃装置接続良好!」
「射撃準備完了!」
「撃て!」
武蔵の九門の主砲が放たれると、大和も同時に発砲した。
二隻の放った合計六発の砲弾は偶然にもミシシッピの第二砲塔へ命中。
弾薬庫で炸裂し、誘爆を引き起こして第一砲塔へも引火。
重装甲を誇る米戦艦でも耐えられない圧力を発生させ、船体を破裂させ両断。
爆風が艦内の隔壁を穿ち各所に穴を開け直後に浸水が発生させ、急速に沈没せしめた。
「敵艦轟沈!」
「ありがたい」
自分の射撃で、初弾命中で敵艦轟沈となった事に猪口は感涙した。
「目標変更、次の敵艦を狙う!」
猪口は素早く変更を命じた。
射撃指揮所が三番艦のカリフォルニアへ向け、射撃データを入力する。
主砲は先ほど右砲のみを発砲していたため残りの砲に弾が残っており、射撃データさえ得られれば微修正で即時発砲が可能だった。
「砲撃準備完了!」
「撃て!」
再び大和と武蔵から六発の主砲弾が放たれる。
さすがに初弾命中は無く夾差もしなかったが、距離は近い。
「修正! 右へ一、下へ二。大和には右へ四〇〇修正するよう伝えろ」
砲術の専門家である猪口とその部下の腕は確かで素早く修正し、大和にも容赦なく修正を行わせる。
「第二修正射! 撃て!」
今度は左砲の六発の主砲弾が放たれカリフォルニアへ殺到する。
命中弾は今度も無かったが、カリフォルニアの周りに水柱が林立――夾差した。
「斉射へ移る! 主砲斉射用意!」
再装填を終えた主砲が同じ角度で上がり、カリフォルニアへ狙いを定めた。
「全砲門、装填完了!」
「撃て!」
大和武蔵が搭載する合計一八門の四六サンチ砲が火を噴き、衝撃波が作る白い波紋を水面に残し一八発の砲弾を空へ放つ。
放物線を描いた砲弾は数千メートルの上空へ飛んだあと落下し。カリフォルニアへ降り注いだ。
猪口の指揮によって一八発の内、五発がカリフォルニアに命中した。
一発は右舷の甲板を貫通し、海中で爆発した。
二発目は煙突に命中し煙突を破壊、排煙効率を低下させると共に周囲の設備、射撃式装置を破壊した。
三発目は、二発目が命中した近くの船体中央部に命中しタービン発電室で炸裂。
発電量が低下し機関出力が落ち、速力低下を起こす。
そして、四発目は第三砲塔へ命中するも運悪く最も分厚い装甲に囲まれたターレットに命中し弾いた。
だが、弾かれた砲弾は艦内を駆け回り乗員を死傷し右舷で爆発。被害を与えた。
五発目は水中弾となり、第二砲塔弾薬庫を浸水させ、砲撃不能にする。
この時点でカリフォルニアは浮いていた。
ダメコン班が出動し艦を救い出そうとしたが、ダメだった。
彼らが動き始めたとき、最初の被弾から四五秒後、大和武蔵の第二斉射がカリフォルニアに襲いかかった。
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