第二次攻撃隊の被害

「第二次攻撃隊にかなりの被害が出ているようです」


 攻撃中の第二次攻撃隊の無線報告を聞いた佐久田は山口に報告した。

 稼働機の減少により第二次攻撃隊は各空母とも通常の半数しか攻撃機を出せなかった。

 それでも一五隻の空母から一八機の攻撃隊を出し二四〇機の攻撃隊となった。

 第一波より機数が多く戦果を上げられると思われたが、空母一隻の撃沈に留まった。

 それも第一波の雷撃で傾斜していた空母にトドメを刺した形だ。

 エセックス級は元々、安定性が悪く二本の魚雷で傾く。戦争が進むと対空砲を増設した影響もあり、さらに復元力が悪くなり、安定性を悪化させていた。

 そこへ魚雷を撃ち込まれたのだから沈んで当然と言える。

 攻撃前に軽空母二隻が見当たらないと報告されており、第二波到着前に沈没したと判断した。

 二〇〇機以上の攻撃機を出して空母一隻とは割が合わないと思っていた。

 純粋な攻撃機、艦攻と艦爆は八〇機だが、命中率を考えれば、八発の爆弾魚雷を空母に打ち込めたはず。

 練度が更に低くなっていると考えるべきだった。


「だが、どうして戦果が少ない」


 山口は尋ねた。

 練度が低くなったとはいえ、残った空母を仕留められないのは誤算だ。


「予想以上に敵機動部隊上空に戦闘機が飛んでいたようです」

「馬鹿な、沈んでいないとはいえ、手負いの空母だぞ。そんなに大量の戦闘機を上げられるか」

「アメリカは、ダメコン、復旧作業が優れています。飛行甲板をすぐに塞いだのでしょう」

「確かにな」


 ミッドウェーの時も、沈めたと思った空母が何度も復旧して浮かんでいたため、別の空母だと思い込んでしまい、何度も同じ空母を攻撃してしまった。

 他の海戦でも甲板を破壊したのにすぐに復旧した事例が多かった。


「だが、それでも戦闘機の数が多いぞ」


 米空母群が放った攻撃隊は合計で三〇〇機。

 だが、こちらの第二次攻撃隊が到達したとき空母群上空にいた戦闘機はおよそ二〇〇機。

 いくら強大な米空母群でも艦載機の収容限度は四〇〇機が良いところだ。

 混乱する戦場での数え間違いは十分にあり得るが、佐久田はそこを心得ており、搭乗員の報告を勘案して正確な報告を書き出す。

 つまり米空母群は五〇〇機の艦載機を積んでいたということだ。


「ハルゼーの機動部隊本隊が現れたのでは?」


 他の参謀が言うと戦慄した。

 確かに戦闘機が増えた事の説明にはなる。その場合、機動部隊はかなり不利だ。

 およそ一五〇〇機の定数を持つ機動部隊はハルゼーと艦載機の数では互角だ。

 だが、連日の攻撃で稼働率は七割を切り、今の攻撃で五割になろうとしている。稼働機は七〇〇機もあれば良い方だ

 ハルゼーも機動部隊を構成する空母群を一つ潰され、補充機を持つ役務群を仕留められて、恐らく一〇〇〇機程度はいるはず。

 ハルゼーの主力が参戦したら日本機動部隊は不利な戦いを強いられる。


「それはないでしょう」


 だが佐久田は冷静に言った。


「先日の第一航空艦隊の索敵でハルゼーの本隊、三個空母群を確認しています。位置からして我々の近辺にはいないはずです」


 事実だった。

 最短距離を全速力で追いかけてきても、ハルゼーが参戦するにはまだ半日ほど時間がある。


「では、どういうことだ」

「簡単です。空母群の上空援護の為、戦闘機のみ送り込んできたんです」


 佐久田の言葉に彼らの疑問は氷解した。

 確かにハルゼーは自分達より、空母群に近い。

 機動部隊への攻撃隊を出せなくても、上空援護の戦闘機を送り出す事は出来るはず。


「だが、飛行甲板は破壊しただろう。それに収容能力がない」

「攻撃を受ける前に飛ばしたんでしょう。いざとなればパイロットだけ回収して投棄するなり、方法はいくらでもあります。周辺にいる役務群の護衛空母から戦闘機を出したり着艦させたりも出来ます」


 一隻一隻は小さくても空母だ。

 発着艦も出来るし燃料弾薬も補給できる。

 戦闘機を収容することも勿論可能だ。


「長官、攻撃を続行しますか?」

「どういう意味だ?」

「攻撃を続行すれば、全速で迫ってくるハルゼーと交戦する可能性があります。また、こちらの稼働機が少なくなっております。これ以上減らしても良いのですか? 万が一、ハルゼーと戦うとき不利な戦いを強いられますが」

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