エセックス級のギミック

 第二次大戦は本格的に空母が活用された戦争だ。

 第一次大戦で発展した航空機を会場で活用――軍艦から飛ばそうと試行錯誤を繰り返した過渡期の末期、それまでの技術の総決算、実戦証明の場となった。

 彼らはこれまでの失敗と成功の結果を見に受ける事になる。

 良くある失敗とすれば英国と日本が生み出した多段飛行甲板空母――赤城と加賀の新造時のような奇妙な形の空母などが挙げられる。

 優等生に見える米海軍も似たようなことをやっている。

 先進的な設計をいくつも取り入れたレキシントンのあと、出来るだけ航空機を詰め込もうと失敗したレンジャーという使いづらい空母を生み出した。

 その後はヨークタウン級、ワスプとまともな艦を建造し、エセックス級で集大成となった。

 だが航空艤装の面で些か失敗を犯している。

 万が一艦尾のみに被弾したとき、後進することで無事な前部から艦載機を着艦させようというアイディアだった。

 そのために、艦首にも着艦装置、アレスティングワイヤーを装備している。

 機関もそのために二〇ノットで一時間後進できるよう、着艦に必要な風力を甲板に生み出せるようにしてあった。

 不要ではないか、という意見もあり撤去する動きもあったが、度々日本との空母戦の時、稀に活用出来るので、残された。

 このときのホーネットもこの恩恵にあずかり、戦闘機の収容に成功した。


「全機収容完了!」

「よし、後進取りやめ、前進へ切り替えろ! 給油の終わった機体から飛び立たせろ! 急げ!」

「了解!」


 後進から前進に切り替えている間に給油と弾薬の補充が終わった機体が飛行甲板に上げられる。

 使える甲板は短いが、カタパルトのおかげで次々と戦闘機が発進していく。


「ワスプ! 発艦開始しました!」


 見張がマケイン司令官に報告した。

 飛行甲板前方に被弾したワスプは甲板に穴が空き、カタパルトは二基とも使用不能だった。

 だが、三基目のカタパルト、格納庫に配置されたカタパルトを使って発艦を始めていた。

 過渡期の空母の開発命題の一つに発艦と着艦の同時遂行がある。

 一枚の甲板しかないと、発艦と着艦を同時に出来ず、どちらか片方だけしか出来ない。

 ミッドウェーの日本軍のようなミッドウェー攻撃隊収容か、敵空母攻撃隊発進かの二者択一を迫られたとき、発艦と着艦を同時に行えれば問題はない。

 空母の開発者はそう思っていた。

 その答えの一つが多段飛行甲板空母であったが、上段部、着艦に使う甲板が一番短くなり、帰って着艦が制限される。

 そして下段は、滑走距離を長くしようとすると格納スペースが圧迫される上に、波が高いと甲板に波が入り込み発艦不能になる。

 一番の大きな理由は、複数段の格納庫を設けると一段当たりの高さが制限され、艦載機の大型化が難しい、という空母、エアークラフトキャリアーが名ばかりになる。

 結果、アメリカは多段飛行甲板空母を作らず格納庫を一段式にして、艦載機の折りたたみ機能を強化、翼の根元から折れ曲がるように改めた。

 機体強度は下がったが、大馬力エンジンと機体構造の強化で凌ぎ、格納しやすさによる搭載機の増加で戦場に投入できる機数の増加、数の暴力で戦場を圧倒する道を選んだ。

 それは正しい方式であったが、エセックス級が計画されたときはまだ証明されていなかったし、何とか発艦と着艦を同時に行おうと試行錯誤を行っていた時期だった。

 故にアメリカの海軍当局は格納庫に横方向へ向けて打ち出すカタパルトを設置することで、直接格納庫から発艦させる方式を考え出した。

 格納庫が発艦、上の飛行甲板が着艦を担当する。

 滑走距離もカタパルトで半ば強引に打ち出すため、最小限で済んだ。

 だが、やはり無理があり、小型機F4Fワイルドキャットあたりが限界と考えられいずれ撤去の予定だった。

 しかし、戦場ではあらゆる無理がまかり通る。

 人殺しという禁忌を大っぴらに行う為、多少の危険――時に死者が出るような事も許される、いや強いられる。

 飛行甲板のカタパルトが二基とも全て破壊されたワスプもその一隻で、補給の終わったF6Fヘルキャットを無理矢理発艦させていた。

 流石に増槽は重量オーバーだったが、機内のタンクには燃料満タンで発艦させる。

 時折、風を捕らえられず、墜落する機体もあったが、艦隊防空のため一機でも多く上げる事が重要だった。

 パイロット達も理解しており、危険を承知でカタパルトから打ち出されていった。


「頼むぞお前達」


 飛び立つ戦闘機に希望を託しマケインは見送る。

 勿論彼も見ているだけではなく、他にも手は打っていた。

 そのため、日本の第二次攻撃隊は意外な苦戦をする。 

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