第三艦隊はいずこにありや

 第一遊撃部隊の進撃が再開したとき、米軍は恐怖と混乱の渦中にいた。

 サンベルナルジノ海峡を封鎖していたハズの第三四任務部隊は居らず、日本軍の主力戦艦部隊がレイテへ迫っている。


「タッフィー3、壊滅! 救援を要請しております!」

「他の護衛空母群はどうしている!」

「日本軍の攻撃により被害甚大! 救援不能!」

「陸軍航空隊は!」

「支援不能です!」

「レイテの陸上飛行場は! 建設中だろう!」

「湿地ばかりで建設できません」


 ハルゼーの報告とは違い、レイテの飛行場適地は狭かった。

 日本軍も知っており、一個師団のみ――防衛方針では飛行場適地に一個師団を守備に充てるとされていたことからもレイテを飛行場建設に不向きな事から重視していなかった。

 飛行場の規模が小さく、多くの飛行機を投入する事が出来ずにいた。


「第三艦隊に救援要請を求めろ!」


 第七艦隊司令部は自分では対処できないと判断し、救援電文を出した。


『第三艦隊はいずこにありや! 第三艦隊はいずこにありや! 全世界が知らんと欲す!』


「ええいっ! 五月蠅い! 何が全世界が知らんと欲す、だ!」


 東方への進撃途中、旗艦ニュージャージーで電文を受け取ったハルゼーは怒り狂った。

 のちに歴史的な電文となるこの通信文の最後は、暗号作成時にランダムに追加される、無意味な一文の一つだった。電文の文頭と文後が同じ文言だと、そこから解読される恐れがあり、無意味な文を入れて解読を難しくする方法の一つだった。

 だが、偶然にも本文と連続性のある文言となってしまい、ハルゼーに削除されないまま伝えられた。なお、この作戦後、追加分の文言は誤認を防ぐためにさらに無意味な文になっている。

 だが、そんな事を知らないハルゼーは自分への皮肉と判断した。


「キンケイドの奴、俺がしくじったと思っていやがる。敗残の日本艦隊相手に怖がりやがって、自分で対処しろ。俺は山口の機動部隊相手で忙しいんだ」


 昨日のウルシー泊地奇襲攻撃で日本機動部隊にしてやられたハルゼーは、何としても撃滅しようと東へ進撃中だった。


「これ以上、山口の機動部隊を野放しにしておく訳にはいかないからな」


 ミッドウェーで打撃を与えたが、その後日本の機動部隊は、神出鬼没な行動を行い、米軍を翻弄した。

 インド洋にいたと思えばソロモンに現れる。

 しかも大事な作戦をしているときに、後方へ回り込んできて痛打を受け、何度作戦を阻害されたことか。

 ソロモンの時、司令官をしていたハルゼーは何度も煮え湯を飲まされており、雪辱の機会を狙っていた。

 そんな事を、逃したくない。


「大体、キンケイドの連中もジープ空母とはいえ空母を持っているだろう。航空攻撃で対処しろ」

「提督、残念ながら、キンケイドの空母部隊は壊滅的な打撃を被っております」


 参謀長が気まずそうに報告する。


「何でだ。日本軍の攻撃など簡単に退けられるだろう」


 一昨日の基地航空部隊の反撃では波状攻撃となり各個撃破出来た。

 油断して軽空母を一隻撃沈されたが、日本の反撃は微弱であり護衛空母部隊でも十分に対応できるはずだ。


「なのにどうして壊滅する?」

「……自爆攻撃です」

「何?」


 ハルゼーは聞き直した。

 参謀長の声が小さかったからだ。


「日本軍は……自爆を……機体に爆弾を持ったまま……空母に体当たりを行い我が方の空母を行動不能にしています」


 タッフィー3だけでなく、タッフィー1、タッフィー2へも他の神風特別攻撃隊の攻撃により護衛空母が大破、艦載機の発着艦が不能になっていた。


「……馬鹿な! いくらジャップでも自爆前提の攻撃を行うわけないだろう!」

「……事実のようです」


 参謀長は恐る恐る答えた。

 第七艦隊司令部からの正式な報告を受けていた参謀長だったが、自身も信じられず、歩言う国も声が小さくなってしまった。


「ふんっ、大方、空母を攻撃されて損傷した事をうやむやにするため、被弾し自爆した機体を大袈裟に報告しているんだろう」


 予想外の攻撃にハルゼーも信じられずキンケイドの誇張と判断した。


「こっちはそれどころじゃないんだ第一空母群が戦闘に入っている。第七艦隊の連中には自分で対処しろと伝えろ。空母がいなくなってもオルデンドルフ隊がいるだろう。第七艦隊の面倒を見ている暇はないんだ。マケインの空母群を支援しなければならん」


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