西村艦隊の状況
「天佑を確信し全軍突入せよ、だと」
旗艦山城の艦橋に集まった第一遊撃部隊第三部隊、西村艦隊の参謀達は戸惑った。
「つまり、日吉は何も考えずに突入しろというのか」
「第一部隊と第二部隊が遅れているのだぞ」
第一遊撃部隊のなかで航続距離の短い朝潮型駆逐艦を含むため最短コースである南コースを取っているため、第三部隊――西村艦隊は真っ先に敵の空襲圏に入る予定だった。
上空の戦闘機援護もない。
空母は本隊の方へ上空援護に出していたし、基地航空隊はダバオ誤報事件でミンダナオ島の基地施設が破壊処理され、稼働出来ない状態で飛ばしたくても飛ばせなかった。
そのため西村艦隊は囮としての役割も考慮されているため、度々の空襲を受けることを想定し、空襲による遅延も考慮して航海計画は立てられていた。
だが、ハルゼーの攻撃が第一部隊と第二部隊に集中したため西村艦隊が受けた空襲は一回のみで、回避機動の成果もあって損害無し。
航行も順調で作戦計画より二時間ほど早く進んでいた程だ。
一方、第一部隊と第二部隊は度重なる空襲で回避行動を取った上、空襲で乱れた陣形を直すため時間を消費し、四時間の遅れが出ている。
「このままでは我々が敵中に突出する事になります」
予定では25日の黎明、夜明けに北方の第一部隊と第二部隊に呼応して第三部隊である西村艦隊はレイテ南方より突入を果たす予定だった。
しかし激しい空襲により第一遊撃部隊本隊はシブヤン海で反転を行っているため、もはや黎明のレイテ同時突入は不可能だった。
このままでは先に西村艦隊が到着し一方的な攻撃を受けてしまう。
しかも佐久田の方針もあり、状況説明が一切無い。
指揮官である南雲との通信も途切れがち、いや事実上途絶していた。
これでは二方向からの同時突入という作戦は無理だ。
一応佐久田は、可能な限り状況判断を各部隊の指揮官が行えるように大幅な権限を与えていた。
だが、統率するはずの連合艦隊司令部は闘将である豊田の性格も相まって突撃の指示しか出していない。
南雲とも空襲のため通信が途切れがちだ。
「第二遊撃部隊の合流を待ちますか?」
第二遊撃部隊――通称志摩艦隊は北方守備の第五艦隊を基幹に機動部隊へ合流出来なかった艦船が台湾の高雄に集結し重巡二隻、駆逐艦四隻で編成された。
司令長官の志摩中将が西村の同期であり、第三部隊が単独で南方から突入すると聞き
「西村だけを一人行かせん」
と半ば無理矢理出撃していた。
途中で西村艦隊と合流する予定だったが、出撃が急で準備に手間取り出撃が遅れた上に、潜水艦と空襲によって回避したため予定より遅れていた。
加えて西村艦隊の予定が早まったため未だ合流出来ずにいた。
このような事情から西村艦隊は戦艦二隻、重巡一隻、駆逐艦四隻の少数のみだった。
「行きましょう」
西村中将は静かに言った。
「空襲が収まっている間にレイテへ行きましょう。もとよりレイテ突入が命令です。第一部隊や第二部隊より先に撃滅してしまいましょう。夜襲で撃破します」
西村の穏やかな声で参謀達も同意した。
既に艦隊が米機動部隊の空襲圏に入っている事もあり、艦隊を長時間敵機に曝すべきではない、という判断も働き西村は単独突入を決意した。
そして予定を繰り上げて、夜明けではなく夜半のレイテ突入を行うことにした。
「早すぎませんか?」
早めに突入すると主力と挟撃出来ないことを参謀長は恐れ意見した。
だが西村は却下した。
「出来るだけ、艦隊が敵空襲圏にいる時間を短くします。夜半に攻撃を仕掛け、夜明けまでに出来る限り遠くへ脱出しましょう」
作戦予定時刻より早く進んでいるが、それは敵の空襲圏に入って仕舞った事を意味する。
空母も陸上航空隊の援護も期待出来ない状況のため、敵に一方的に攻撃される状況をできる限り短くしたい西村だった。
参謀も西村の意見に同意し艦隊は進撃を続けた。
「南方より敵艦隊が接近しています」
キンケイド中将率いる第七艦隊は、24日の間、日本艦隊の動向にやきもきしていた。
南北から二つの日本艦隊が接近している。
合計すると自分の戦力を大きく上回る。
だが、ハルゼー率いる第三艦隊が、サンベルナルジノ海峡を封鎖、北の日本艦隊に空襲を仕掛け反転させる事に成功した。
これにより24日午後、キンケイドは南方から来る日本艦隊に対して迎撃を行う事を決意した。
「オルデンドルフ少将に命令。指揮下の部隊を使い。南方より接近する日本艦隊を迎撃せよ」
オルデンドルフ少将に与えられたのは、戦艦7隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦26隻、魚雷艇39隻だ。
「なんとしても時間を稼いでくれ」
キンケイドは切実に言った。
後方のウルシーが壊滅し補給の見込みがない。
幸い、指揮下の補給艦に手持ちの予備の燃料弾薬があるが、新たな補給の予定が立っていない以上、作戦の中止、撤退さえ視野に入れなければならない。
しかし、マッカーサーは二度とフィリピンを離れない、と宣言。作戦は続行される事となった。
マッカーサーとしては現在の船団の物資のみで十分に作戦可能であり、ハルゼーならば日本艦隊を撃滅してくれると信じていた。
キンケイドも受け取った情報からマッカーサーの現状認識に同意していたが、万が一を考える必要があった。
そして、未だに進撃を続ける南方の日本艦隊を撃破する必要があり、西村艦隊の迎撃に集中することにした。
こうしてスガリオ海峡海戦は始まることになる。
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