ウルシー泊地奇襲の影響
「畜生! ジャップの野郎!」
報告を受けたハルゼーはウルシー泊地空襲の電文を床にたたきつけた。
「日本機動部隊の撃滅に向かうぞ! 全艦東へ回頭! 日本機動部隊を攻撃する! 全ての空母群を叩き付けろ!」
「お待ちください閣下!」
大声で怒鳴るハルゼーに参謀長が止めに掛かった。
「我々は上陸部隊を援護する任務が」
「日本の機動部隊の殲滅が最優先だ! 我々以外に山口の機動部隊を仕留められるものはいない! 連中を仕留めるぞ!」
「ですがシブヤン海に日本艦隊がいます」
「戦艦を一隻失い撤退する連中に備える必要は無い! 全艦東に向かえ! 日本機動部隊を殲滅して二度とこんな真似が出来ないようにしてやる!」
「第三四任務部隊は?」
シブヤン海の艦隊が強行突破したときサンベルナルジノ海峡で迎撃するため指揮下の戦艦を各空母群から抽出し第三四任務部隊に集めるよう命じていた。
「配置する必要は無い! 各空母群に戻し日本軍を追わせろ!」
「しかし」
「これは命令だ!」
「……分かりました」
参謀長も命令に逆らうわけにはいかず、敬礼して発令するべく通信室へ向かった。
直ちにハルゼーの命令は実行され、アメリカ第三艦隊は日本機動部隊を撃滅するためにウルシーへ向かって進撃を始めた。
だが、ここで問題が発生した。
既にハルゼーはシブヤン海にいる第一遊撃部隊に攻撃を加え撃退した、としていた。
また、サンベルナルジノ海峡周辺に戦艦部隊を配置し封鎖しようとしていることも各部隊へ発信していた。
だが、ウルシー泊地へ攻撃を仕掛けた機動部隊を撃滅するために東に向かったという情報が攻略参加部隊へは、ウルシー泊地奇襲の衝撃もあり伝わらなかった。
後方基地であるウルシー泊地への攻撃は、作戦の成否に関わる事であり、情報収集のために米軍の通信では問い合わせ電文が錯綜。
ハルゼーの東進が報告されず、しばしの間、ハルゼー艦隊の所在は不明となった。
これが後に重大な戦局の悲劇をもたらすことになる。
「ウルシーの攻撃に成功しました!」
日吉の慶応大学キャンパス内に建設された連合艦隊司令部に明るい声が響いた。
久方ぶりの戦果であり、吉報だったからだ。
「敵艦隊の一つでも殲滅してくれればな」
報告を聞いた豊田長官は吐き捨てるように言った。
本来なら機動部隊の兵力と航空艦隊でハルゼー艦隊を撃破するべきだ。
だが、佐久田が強固に米軍の策源地であり、物資の集積地となっているウルシーへの攻撃を主張。軍令部も作戦案を承認し、連合艦隊に命じてきては拒絶する事は豊田にも出来なかった。
命令を下達し、艦隊が出撃してからは状況の報告を受けるだけだった。
陸上に基地を移してからは部隊の管理以外、何も出来ない。
航空戦に移ったため、航空機をいかに揃えるか、稼働機を増やすかが焦点になっていたからだ。
かつての日本海海戦のように露天艦橋で国家の存亡を賭けて全艦隊を率いる時代は終わっていた。
いっそ、海上に出ようかと思ったが、艦隊も機動部隊が主力となっており、航空機をいかに戦わせるかが重要になっている。
南雲大将のように第一遊撃部隊と共に突撃すれば良かった、と豊田は思う。
だが、艦隊司令部の前線への進出、まして旗艦出撃では無線封止を行う必要があり司令部の指揮命令が不可能になる、ミッドウェーの二の舞を踏むことは出来ない、と佐久田が主張し、却下された。
そのため、豊田は日吉の地下壕に籠もることを強要されていた。
「ハルゼー艦隊がサンベルナルジノ海峡から離脱したようです!」
戦果確認の為、飛んでいった第一航空艦隊の偵察機が、レイテ東方への索敵に成功。
東進するハルゼー艦隊を見つけ出して報告してきた。
「そうか! でかしたぞ!」
ハルゼーが東方へ誘引されたことに司令部は喜んだ。
このままいけば、第一遊撃部隊はレイテへ突入出来る。
だが、直後に陸奥の喪失と、一時反転の報告がもたらされ、豊田達を苛立たせた。
「南雲大将は、第一遊撃部隊は何をしているんだ」
せっかくの好機を失うような反転に豊田は苛立って命じた。
「全部隊に督励電文を送れ、天佑を確信し全軍突入せよ、と伝えろ」
「はっ」
豊田の電文は早速、大和田にある海軍通信所から発信され作戦行動中の全部隊に通達された。
「馬鹿げている」
ウルシー攻撃を終え、全攻撃隊を収容し、離脱北上に入った機動部隊旗艦信濃の艦橋で電文を受け取った佐久田は、鼻を鳴らして呆れた。
「既に作戦は発動している。作戦中の部隊に司令部が出来る事は、正確な情報を指揮下の部隊に送る程度だ。後方で口先だけで突撃しろと言っては誰も従わない」
佐久田に反発している人間でさえ、佐久田の意見には賛成だった。
一方、第一遊撃部隊は再反転を行い進撃を再開している最中であり、言われるまでもない、と言った態度を貫き、受け取った全員が無言だった。
ただ第三部隊、山城を旗艦とする西村艦隊のみは違った。
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