スガリオ海峡海戦

 24日深夜、西村艦隊はスガリオ海峡へ突入した。

 狭隘な海峡を通過するため、時雨以下の駆逐艦が海峡出口を警戒するため先行する。


「先頭を進む時雨より緊急電! 敵魚雷艇接近!」


 最初に西村艦隊に襲撃をかけたのは魚雷艇だった。

 40隻の魚雷艇が、一斉に西村艦隊に向かって襲撃を開始した。


「駆逐隊に命令! 迎撃せよ!」


 偵察機の報告により、魚雷艇の集結を知っていた西村は、予め駆逐隊を先行させ掃討を命じていた。

 満潮、山雲、朝雲が魚雷艇を発見し砲撃を加え撃退した。

 だが逆方向で警戒していた時雨から通報が入った。


「逆探に反応! 敵艦です!」


 警戒隊が魚雷艇に注意を向けている間にアメリカ駆逐艦が、反対側から接近してきていた。


「探照灯照射!」


 時雨はすぐに死番艦として探照灯を付けて米駆逐艦を照射し射撃する。

 レーダーに探知された駆逐艦は敵の目を引きつけ、おびき寄せ、味方の攻撃を援護するのだ。

 行動は成功し、米駆逐艦は魚雷攻撃を行うも、遠距離だったため回避に成功。

 西村艦隊に被害はなかった。

 更に満潮と山雲がやってきて援護するに至り、米駆逐艦は撃退された。

 前衛を蹴散らせたと安堵したところへ、朝雲の緊急電が入った。


「前方より敵レーダー波探知!」


 正面から新たな敵の駆逐艦が接近していた。

 時雨以下の駆逐艦は既に見つけた敵駆逐艦に対応しているため朝雲を援護できない。


「面舵! 主砲射撃始め! 目標新たな敵駆逐艦! 朝雲を援護せよ」


 西村は命じた。

 味方の駆逐隊が朝雲の元へ駆けつけるのに時間がかかる。

 主力である扶桑、山城以外に対応出来る戦力はないと判断。右に舵を切り左舷へ全主砲を向けられるようにして砲撃させることにした。

 僅か数分で山城と扶桑は全主砲から発砲した。

 日本初の超弩級戦艦として設計された扶桑は建造されて三〇年以上経ったこの日ようやく敵に向かって、砲撃した。

 それまで活躍出来なかった鬱憤を果たすように一二門の主砲を敵に向かって激しく打ち込んでいった。

 だが、そこに魔の手が迫っていた。


「魚雷接近!」


 発見した米駆逐艦は既に魚雷を発射していた。


「回避!」


 西村艦隊は直ちに回避を行い接近する魚雷を避ける。

 魚雷が当たらないよう、西村艦隊は魚雷の方向へ回頭し頭を敵駆逐艦へ向ける。

 最初の魚雷は回避したが、時間差を付けて波状的に魚雷が放たれていたため、西村艦隊は直進を余儀なくされた。


「拙いですね」


 戦況を見ていた西村は呟いた。


「拙いですか? 我が軍は善戦していますが」


 敵のレーダー波を探知して迅速に反撃しており優位に戦っている。

 針路は制限されるが、戦艦の主砲は射撃を行える角度だ。


「被害はありませんが、攻撃は敵からのものばかり。それに、敵に誘導されている気がします」


 西村が危惧を示した時、前方から閃光が放たれた。




「素晴らしい練度だ」


 西村艦隊が魚雷を回避し反撃する姿を情勢図で見たオルデンドルフ少将は感嘆した。

 あれほど素晴らしい回頭を夜間に狭い海峡で行える海軍軍人は少ないし、それに応えられる将兵も少ない。


「だが、お陰で素晴らしい状況になった」


 魚雷によって単縦陣となった西村艦隊がまっすぐオルデンドルフ少将の艦隊に向かっている。


「これぞ提督たる者! 夢にまで見た理想的なT字戦法だ! 全艦砲撃開始!」


 西村艦隊の前を横切るように指揮下の戦艦七隻を展開したオルデンドルフ少将は、指揮下の戦艦に砲撃を命じた。

 コロラド以下、六隻の戦艦が発砲し、西村艦隊へ雨あられと砲撃を加える。

 本来なら魚雷艇と駆逐艦で陣形を乱し戦力が半減したところを攻撃するつもりだった。

 ソロモンで苦い思いをさせられた日本軍駆逐艦の戦術を解析し、対応策として駆逐艦を二手に分け攻撃させると共に戦艦による支援を行わせる新たな戦法だ。

 更にオルデンドルフ少将は念を入れて事前で魚雷艇で攻撃を行い攪乱させることも加え、日本軍の連携を邪魔して撃破しやすくしようと企てた。

 だが、予想以上に日本軍、西村艦隊の動きが良く、魚雷艇と駆逐艦では撃破出来なかった。

 しかし、敵西村艦隊の戦力は少なく、オルデンドルフ少将の部隊でも十分に対応出来るので問題は無い。


「一挙に撃滅しろ!」


 隻数で三対一、戦力ではランチェスター法則に従い二乗となる九対一の圧倒的戦力差で押し潰し、反撃する余裕など与えず壊滅させようとオルデンドルフ少将は決心し命じた。

 丁度スコールが周囲に展開していたが、オルデンドルフ隊はレーダーの支援もあって砲撃を行った。

 大口径砲の発砲炎が雨粒に乱反射し、周囲を光の幕で包む姿はさながら天使の演舞だった。

 彼女らは周囲を白い輝きに染める度に死を、大口径砲弾を放ち、西村艦隊に浴びせた。

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